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第10話

「おや、先ほど会ったばかりだというのに。ずいぶんとあいつのことがわかっているのですね」


 サクラのつぶやきに、クロビスが鼻を鳴らした。

 不機嫌そうに腕を組み、ぎろりとサクラを睨んでくる。


「……いやあ、なんとなくそう思っただけで。べつにわかっているとかさ、そういうのではなくてね……」


 サクラはゲーム内での情報を踏まえて、ロークルという人の感想を述べてしまった。

 さきほどから余計なことを言い過ぎている。

 サクラは話題を逸らそうと、クロビスに疑問を投げかけた。


「そ、そんなことより! あなたはロー、クルさまとは親しいのね?」


 実はこの部屋にやってきてから、ずっと気になっていた。

 クロビスとロークルとの軽快なやり取りに、興奮していた。

 サクラがからだを震わせたのは、二人が親しく会話をしているのを見てしまったせいでもある。


「まさかさ、そろそろ結婚しろとか、そういうことを言ってたのもロークルさまなの?」


 サクラはぐいっと身を乗り出し、目を輝かせながら尋ねた。


「すごく気安い友人というか、打ち解けているように見えたものだからね。二人のこと、知りたくなっちゃったのよねえ?」


 ゲーム内情報からでは、二人の繋がりを察することはできなかった。

 考えてもみれば同じ領地に住み、同じ主人に仕えているのだ。

 接点があることは予想できたかもしれないが、異性を紹介しようとするほどの仲とは思わなかった。


 サクラの問いかけに、今度はクロビスがげっそりとした雰囲気を醸しだす。


「……まったく、あなたまで面倒な話をするのですか。もういいですから、さっさとお体を調べさせていただきますよ」


 クロビスがやれやれと頭を振りながら、話をはじめたときだった。




 ━━カーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーン!




 けたたましい音が鳴り響く。

 この音を、サクラはよく知っていた。

 襲撃を知らせる警報音だと気がつくのに、時間はかからなかった。


「クロビスさま!」


 部屋の中にいて、ずっと気配を消していた者のひとりが声を上げた。


「わかっています。すぐに行きますから先に!」


 クロビスの返事を聞いて、部屋の中にいた者たちが廊下へ飛び出していく。


「サクラさんはここにいてください。ノルウェット、行きますよ」


「はい! もう出れますー」


 いつの間に準備をしていたのだろう。

 クロビスに声をかけられたノルウェットは、大きな皮の鞄を抱えていた。


「ちょ、ちょっと待ってよ! こんなところにひとりは嫌!」


 サクラは他の者たちに続いて廊下へ飛び出そうとしているクロビスの腕を慌てて掴んだ。


「下手に動かないほうがいいです。どうしてもここでひとりがお嫌なら、来たときとは反対側に廊下を進んでください。非戦闘員たちが避難しているはずですから、その者たちと一緒に逃げてください」


 クロビスが一息に捲し立てる。


 クロビスが言葉を言い終えると同時に、サクラが彼に触れていた部分から、バチンと音がする。

 サクラの手のひらが、熱をもってひりひりと痛み出す。

 魔法で強引に手を振り払われてしまった。


 本当に魔法を使われていた。

 クロビスに拒絶された。


 サクラがそのことに衝撃を受けて固まっている間に、クロビスとノルウェットは部屋を出ていってしまった。

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