「……むう、そうか」
警備兵たちから責め立てられて、ロークルはしばらく考え込んだあとに絞り出すような声を出した。
「脅かすつもりはなかったのだがな。私はそんなに恐ろしかっただろうか?」
ロークルはゆっくりと兜を取り外しながら、警備兵たちに問いかける。
あらわれた素顔は眉間に皺を刻んだ、壮年の男性。
イタリアが舞台のマフィア映画にでも出てきそうな、ワイルドで渋い顔のお兄さんだ。
ロークルの素顔は、ゲーム内でも見ることができる。
素顔を晒されたところで、驚くことはない。
とはいえ、実際に目の前でその素顔を拝む機会がおとずれることになろうとは、思ってもいないことだった。
サクラのミーハーな心が、ふたたび騒ぎ出す。
──やばい! ロー兄さんの生顔の破壊力ハンパない! カッコ良すぎなんですけどー!
サクラはきっとものすごい顔になっていたのだろう。
ロークルがサクラの様子を見て、不思議そうな顔をしている。
「そもそも隊長が、会ったことはあるか、なんて言うのがいけないのですよ」
「そんなお決まりの口説き文句を言われたら、誰だって警戒しちゃいますもん」
「それな! 吹き出して笑いそうになったわ」
げらげらと笑って言う警備兵たちに、反省の姿勢を見せていたロークルの表情に怒りが滲む。
しかし、怒っている顔さえカッコいいと、サクラのテンションは爆上がりしていく。
「お前たちにはあとで徹底的に指導をするとして……。お嬢さん、怖がらせて申し訳なかった」
「──っいぃいい、いえいえ! ロークルさまに謝罪していただくようなことはまったく。そのようなことをしていただく必要はございませんので、頭をあげてくださいませ!」
ロークルはサクラに向かって勢いよく頭を下げてきた。
サクラは慌てて両手をふり、ロークルに顔を上げるように促す。
「おや、私の名前をご存知とは。やはりどこかでお会いいたしましたかな?」
「…………い、いいえぇ。お会いするのは初めてでございますわ」
「そうですか? 先ほどからどうにもあなたの様子が気になりましてな」
サクラはまずいことを口走ってしまったかもしれない。
さすがに名前を知っていただけで、異世界からきた稀人だとはバレないだろう。
しかしながら、サクラにはそう確証を得ることはできなかった。
サクラが冷や汗をかいていると、警備兵たちにもういちど助けられた。
もし元の世界に帰れることがあったとしたら、もう彼らとは戦わないと心に誓う。
「そりゃ隊長のことを知らない領民がいるわけないですよ」
「お会いしたことはなくても、見れば一発でわかりますもん」
「親衛騎士の鎧に領主家へ代々伝わる宝刀を持った方なんて、隊長以外にいませんから!」
警備兵たちの言葉で、ロークルは納得してくれたようだ。
それもそうかとつぶやき、ロークルはサクラとノルウェットの足もとに置かれた二つの箱をひょいと持ち上げた。
「城内に入りたいのだろう? この者らの不手際の詫びに案内しよう」
「そんな! ロークルさまに運んでいただくなんて申し訳ないですー」
「良いのだ良いのだ。クロビスのもとまで持っていけばよいのか?」
ロークルが箱を抱え込むと、ノルウェットが慌てて声をかける。
しかし、ロークルはそんなノルウェットを無視して、さっさと通用門へ向かってしまった。
「…………もしかして、逃げるチャンスきたかなコレ?」
サクラは城門に背を向けて、家に帰ろうとした。
だが、ノルウェットに腕を掴まれてしまい、逃げ出せなくなってしまった。
「さあ、師匠がお待ちですよ。早くいきましょー!」
そのままずるずると引きずられるようにして、サクラはようやく城の敷地内に足を踏み入れたのだった。