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第4話

「………………………………………………すっげえ美人じゃん」


 警備兵がぽつりとなにかをつぶやいた。

 サクラは警備兵がなにを言ったかわからず、首をかしげた。


「あの、いかがなさったのでしょうか?」


「……どうして、どうしてなのですか……」


 サクラが声をかけると、警備兵は声を震わせながら話はじめた。


「なぜ、どうして。あんな変人にこんな、こんな……」


「どうしてとは、いったいなんでしょう? はっきりとおっしゃってくださいませ」


 警備兵が、先ほどよりもさらにぐいっと顔をサクラに近づけてきた。


 警備兵の目が血走っている。

 その様子に、サクラの背筋に嫌な汗が流れた。


 いよいよ逃げた方がいいかもしれない。

 サクラは頭の中に、クロビスの家からここまでの道のりを思い浮かべる。


「あなたのような美しい方が、どうして軍医殿と婚約することになったのですか?」


「………………は、はあぁああ⁉︎」


 予想外の質問をされた。

 おもいがけない言葉に、サクラは声が裏返ってしまう。


「あなたのような美しい方が、どうして軍医殿と婚約することに……」


「質問は聞こえておりますわ!」


 サクラが戸惑っていると、警備兵は同じ質問をもういちど口にしようとする。

 慌てて止めると、警備兵はじっとサクラの目をみつめたまま黙り込む。


 ──っもう! このすぐ黙って見てくるやつ何回目なのよ。いい加減イライラしてきたな。


 サクラは警備兵に対して苛立ちを覚える。

 もしいまの自分がゲーム内と同じ立ち回りができるのならば、とっくに切り捨てているだろう。

 装備品の一つや二つ、奪い取って商人に売りつけて金にしてやるところだ。


「おいおい、なにごとだ?」


 黙り込んでいる警備兵のうしろから声がした。

 警備兵がサクラをみつめたまま固まっているので、もう一人の城門警備の兵士がこちらへ近づいてきたのだ。


「いつまでもボケっとしていないで、さっさと仕事をしろ」


「いやあ、すまない。あんまりに驚いちまってな。こちらのお嬢さん、軍医殿の婚約者さんだってさ」


「マジで! 軍医殿ってクロビスさまのことかよ」


「そうそう。あのクロビスさまの婚約者さんだってよ」


 最初に声をかけてきた警備兵が、あとから来た警備兵にサクラのことを話している。

 あとからやってきた警備兵もバイザーをあげて、まじまじとサクラをみつめてくる。


「……そ、そんなに意外なのでしょうか?」


 またこれかと、半ば呆れながらサクラは警備兵に問いかける。


「意外ってもんじゃありませんよ。あの方に人を愛する心とかあったのかって、驚いています」


「俺は軍医殿にも人並みに感情があったのかって、むしろ感動していますね」


 サクラの質問に、二人の警備兵は大きな声で答えた。

 それから二人の警備兵は、わいわい盛り上がってその場で話しこんでしまう。


「……あのう、入城の手続きをお願いしたいのですがー……」


 ノルウェットが遠慮がちに警備兵に声をかける。

 しかし、楽しそうに話し込む二人の警備兵には届かない。

 すると、たまたま城門付近を通りかかった別の兵士たちが、なにごとかとこちらに近づいてきた。


 そうしていつの間にか、サクラの周囲には十名ほどの兵士がいる。

 彼らは大声で話しながら、ときおりチラチラとサクラに視線を送ってくる。


「…………この状況ってさ、もしかしてゲーム的にはかなりピンチなのでは?」

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