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第11話

「普通に生きている人間と変わりないように思うのですが、これが作り物の肉体とは驚きました。あなたのいた世界はずいぶん魔術が発達しているのですね」


「うーん、魔術とは違うはずなんだけどね。この世界へやってくる直前の記憶がなくて、私にもこの状況は説明できないの」


「それは残念です。医師としてあなたのからだの作りがとても気になります」


 サクラの頬を撫でたり軽くつねったりしながら、クロビスはまるで子供のように無邪気に笑っている。


「機会があれば、少しおからだを調べさせていただいてもよろしいですか?」


「さすがに解剖したいだとか、そういうのは嫌よ。触ったり採血したりするくらいならいいけど……」


 サクラの返答を聞いた途端、クロビスは薄笑いで唇をゆがめた。


「……痛いのは絶対ダメだからね。睡眠薬とか、そういうのも勘弁してよ?」


「くすぐったいと感じる程度には、感覚があるようですねえ」


 クロビスがそう言いながら気味の悪い笑顔をするので、サクラは目を細めてキッと睨みつける。

 すると、クロビスは穏やかに微笑みを浮かべた。


「ご不快になるようなことはしませんよ。それよりも、服の着方がわからないのなら着付けてさしあげます。いかがいたしますか、婚約者どの?」


「……それはどうもありがとう」


 サクラは負けずに微笑み返し、クロビスにからだを預けるように両手を大きく広げた。

 てっきりもう少しくらいからだに触れられるのかと思っていた。

 しかし、クロビスは手際よくサクラに服を着させてくれただけだった。


「こうして女性の服を脱ぎ着させるのはお得意なのかしらね」


「こう見えて私は医師なものですから。衣服の着脱の介助くらいできますよ」


「……なんだか介助と言われてしまうと、少しばかりがっかりするのはなぜかしらね」


「残念ながら、私に人形を抱く趣味はありませんから。人形の着せ替えをする趣味もないはずなのですけどね」


 服を着せてくれたあと、クロビスはサクラの肩に手を置いた。

 そうして、じっくりとサクラのからだを上から下まで眺めたあとに、ぽつりと呟いた。


「……ヴァルカに仕立屋を呼ぶように言っておきます」


「あらあら、着せ替えしたくなっちゃった?」


 サクラが意地悪く笑うと、クロビスは出会ってから何度目かわからないため息をついた。


「仕立屋には流行りの服を作るようにしてもらいますが、あなたからも採寸のときに直接つたえてください」


「……ああ、そういうことなのね。わかった、ご主人さまの意向だってきちんとつたえるわ」


 ヴァルカがサクラのために用意してくれた服は、どうやら古風なデザインらしい。

 サクラはゆっくりと頷きながら返事をする。


 ──それにしても、クロビスって女性ものの服の流行りまで把握しているんだ。なんか、想像していたキャラクター像からどんどんかけ離れていくんだけど⁉︎


 サクラはクロビスの意外な一面をまたひとつ知ることになった。

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