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第6話

 プレイヤーの敗北が確定しているイベント。

 すなわち負けイベントとは、ゲームにおいて戦闘を伴う負けが確定しているイベントのことである。

 シナリオの展開上、プレイヤーはどんな手を尽くしても敵対者に勝つことはできず、負けることでシナリオが先へと進んでいく。


 このゲームは死にゲーだ。

 当然、敵対者に敗北することはイコール死である。

 ゲームなら生き返ってプレイを再開できるが、そうなると断言できるほどの確証がどこにもない。試してみるにはリスクが大きすぎる。


 ──このままイベントが発生しないならありがたいけど。ゲーム内でのシナリオから外れた行動をしているから、これからどうなるか想像もつかないな。


 サクラが街に入ってしばらく時間が経つが、イベントが発生する気配はない。

 考えられる理由の一つとしては、ゲームでの展開とは違い、プレイヤーであるサクラが、NPCであるクロビスと一緒に行動をしていることだ。

 しかし、これからも常にクロビスと行動を共にするわけにはいかないだろう。ひとりになった途端に、イベントが発生することも考えられる。


 ──ひとまず負けイベントが発生しないのは安心したけど、油断は禁物だよね。


 サクラはゲームとの相違を改めて思いしらされて、これから先の生活に不安を募らせる。

 そんなサクラの心のうちを知ってか知らずか、クロビスが淡々と話をしている。


「家の者にはあなたのことを私の恋人だと紹介します。あなたは戦で家を焼け出されて家族を失った。その衝撃で記憶に障害が起きていると説明します。ですから、余計なことを言って流れ人であることがバレないようにしてください」


「……わかったわ。おしゃべりには気をつける」


 出会った場所からここまでの道中、サクラはクロビスからこの街で暮らすにあたってのあらゆる指示を受けていた。


 ──そうか。私が街にやってきても負けイベントがはじまらなかったのって、クロビスと一緒にいたことで稀人であることがバレなかったということかな? やっぱりクロビスに縋りついて正解だったんだよ!


 基本的に、この世界の住人たちは異世界人である稀人に優しくない。

 出会えば必ずと言っていいほど、敵対状態になる。

 和解なんて存在しない。どちらかが倒れるまで、永遠に戦闘が続くのだ。


「私はあなたの婚約者。しばらくはしょんぼり落ち込んだふりをしているから、安心してくださいませ」


 サクラは拳を握って、やる気をアピールする。

 クロビスはそんなサクラを見て肩をすくめた。


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