「それにしても、本当に大きくて立派な街ね」
ゲーム内で何度も足を運んだ街とはいえ、こうして自分の目で見るのは新鮮な気持ちになる。
ゲームのときは三人称視点だったが、現実だと一人称視点になるので没入感がまったく異なる。
中世ヨーロッパ風の街並み。
開発スタッフがヨーロッパまで取材に行ったというほどなので、どこかに存在する本物の街のようだ。
しかし、実際に細かいところまで見てみると、ゲームの世界に存在する神々をモチーフにした意匠がそこかしこに散りばめられている。
ここがサクラの住んでいた世界でないことを、まざまざと見せつけられているような気分になってくる。
「この辺り一体の土地を治めている領主の住む街ですから。……ですがこんな街、王都と比べたらなんてことない街ですよ」
「ふーん、そうなんだ。王都、ねえ……」
暗礁の森からこの街までやってくるだけでも、それなりに時間がかかった。
王都に向かおうとするならば、たどり着くのにどれほどの年月が必要なのだろうか。
そう考えて、サクラは肩を落とした。
──あれ、でも。ゲーム内でクロビスとやり取りをしていたなかで、彼から王都の話を聞いたことなんてあったかな?
サクラはクロビスの口から
クロビスと王都の繋がりなんて、ゲーム内で示唆されていたことがあっただろうか。
サクラはゲームのシナリオを思い出そうとして、その場で足を止める。
クロビスの台詞で王都への言及はなかったはずだ。
では、ドロップアイテムのフレーバーテキストに書いてあっただろうか。
「ねえクロビスさん。比べたらってことは、あなたは王都へ行ったことがあるの?」
「……いいえ。そのように聞いていたので、ついそう言ってしまっただけですよ」
サクラが足を止めたので、クロビスがつられて歩みを止めた。
彼はサクラの質問に穏やかな声色で答えると、すぐさま前を向いて再び歩き出す。
「そうなのね。きっと王都ってものすごく立派で、素敵な街並みなのでしょうね」
「ええ、そうですよ。きっと優雅で壮大な街並みでしょう」
ゲーム内でプレイヤーが王都にたどり着くころ、それはゲームシナリオ的にはほぼ終盤になる。
そのころになると玉座をめぐる争いが激化していて、王都は周辺国から攻められまくってさびれていた。
わびしい廃墟が立ち並んでいて、とても素敵な街並みとは言えない。
だが、そんなことをいまここでわざわざクロビスに伝えることはない。
本当の王都の美しさを知りたいだなんて、言えない。
──それにしても、いまのクロビスの返事って……。王都に行ったことがあることを、うっかり口を滑らせてしまったって感じにしか聞こえなかったな。
サクラはただ純粋に疑問に思ったことを質問しただけだ。
仮面のせいで表情は見えなかったが、クロビスが王都へ行ったことがあることは隠しておきたいといった雰囲気が感じられた気がした。
「……どうなさったのですか? 迷子にならないようにきちんとついてきてください」
サクラが立ち止まったままぼんやりと考え込んでいると、前を歩くクロビスに声をかけられた。
彼はサクラの返事を聞かずに、そのままさっさと先に進んでいってしまう。
「ちょっと待ってよ。置いていかないで!」
サクラは小さくなっていくクロビスの背中を、慌てて追いかけた。