──────────────────────
いまサクラがクロビスと出会ったのは薄暗い森の中だ。
サクラは頭の中で、ゲーム内のマップを思い浮かべる。
──ここはおそらく、ゲームにログインしたときに主人公が最初に目覚める森であっているはずだよね。うん、クロビスがいるのだから間違いない!
プレイヤーが熊に追いかけられて崖から落ちた場所は「
森の中なのに、暗礁とはどういうことなのか。
初めてログインしてプレイしたときにはそう思ったものの、サクラはその名称について深く掘り下げて考えたことはなかった。
──もしかして、稀人が流れ着く先だからこそのネーミングなのかな。暗礁に乗り上げる、とかいうもんね。時空という海を漂ってやってきた異世界人が打ち上げられる土地だから、なんて……。
サクラは新しいゲームをプレイするときには、ネタバレが嫌でしばらくSNSを見ないようにするタイプだ。
攻略系のサイトこそ煮詰まったときには参考にしたりもするが、今ばかりは積極的にゲーム考察に触れてこなかったことを悔やむ。
「……ねえクロビスさん。もう一時間くらいは歩いたと思うのだけど、まだ街には着かないの?」
森の中を歩いている一時間の中で、サクラとクロビスは何度もモンスターの襲撃を受けた。
今までモニター越しで見ていたモンスターたち。
見覚えのあるそれらの生き物を目の前にしたとき、サクラの心に喜びはなかった。
ただただ恐ろしく、動けないでいた。
サクラが怯えて震えている間に、クロビスが行く手に立ち塞がるモンスターを切り捨てていく。
「もう少しで着きますが、お疲れになったのなら休みますか?」
「私はぼんやりしているだけだから疲れてはいないわ。あなたが一人で戦ってくれているから、からだは無事なのか気になっただけ」
サクラはクロビスが戦闘能力のあるキャラクターであることは知っている。
しかし、実際にこうして目の前で戦われると、モニター越しで見ていた姿とはまるで違う印象になる。
現実では見たことのない異形の化け物に立ち向かっていく姿。
その背中がとてつもなく頼もしくて、目を奪われてしまう。
「私のことならご心配なさらないでください。この森にいる獣であれば、問題なく始末できます」
「あなたが問題ないのならそれでいいけれど。それにしたって、あなたと出会った場所はずいぶん街から遠いんだなと思って」
ゲーム内では、クロビスと出会った暗礁の森から、最初の街までの移動は10分もかかっていないはずだ。
地図上の距離と実際の距離の感じ方が違うことは理解できる。
しかしながら、ゲームと現実ではこうも違うのかと気持ちが落ち込んでしまうのだ。