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高難易度ゲームの世界に転生してしまったので、生き残るために最初に出会ったNPCに全力で縋ります!
高難易度ゲームの世界に転生してしまったので、生き残るために最初に出会ったNPCに全力で縋ります!
黒蜜きな粉
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年01月07日
公開日
12.1万字
完結済
『世界を救うために王を目指せ? そんなの絶対にお断りだ!』

 ある日めざめたら大好きなゲームの世界にいた。
 しかし、転生したのはアクションRPGの中でも、死にゲーと分類される高難易度ゲームの世界だった。

 死にゲーと呼ばれるほどの過酷な世界で生活していくなんて無理すぎる!
 目の前にいた見覚えのあるノンプレイヤーキャラクター(NPC)に必死で縋りついた。

「あなたと一緒に、この世界で平和に暮らしたい!」

 死にたくない一心で放った言葉を、NPCはあっさりと受け入れてくれた。
 ただし、一緒に暮らす条件として婚約者のふりをしろという。
 婚約者のふりをするだけで殺伐とした世界で衣食住の保障がされるならかまわない。
 死にゲーが恋愛シミュレーションゲームに変わっただけだ!
 


※第4回ネオページサポートプログラム賞にエントリーしております。よろしくお願いいたします。

第1話

「──っぎゃああああああああああ!」


 森の中で熊に出会ったら、死んだふりをしろ。

 その知識が間違いであることは、すでに周知の事実だ。


 では、本当に森の中で熊に出会ってしまったら、どうするべきか。

 それを正しく答えられる人間は、いったいどれだけいるのだろう。

 その正しい答えを実践できる者は、その中の何割になるのだろうか。


「いやああああああ! こっちにこないでええええええええ!」


 まず間違いなく、大声を出して逃げ回るということが最善ではないことはわかる。

 あとになって考えてみれば、まずはおちついて相手の様子をうかがってみるだとか、やりようはいくらでもあったと反省している。


 しかし、こうして実際に森の中で熊に出会ってしまった。

 この状況に落ち着いて対応できる者は、ごくわずかではないかと思う。

 自分だけが間違った対応をとってしまうのではない、そう信じたい。



「ごめんなさいいいいいー! もう嫌だあああああああ!」




 目が覚めると、私はなぜか地面の上に寝転がっていた。

 そんな私の目の前には、これまたなぜか熊がいた。

 自分のからだの数倍はある巨大な熊で、荒々しく息をしていたのだ。

 私の頬の上に、熊の口からべっとりとしたよだれが落ちる。


「──っきゃあああああああああ!」

「ぐるるるるるるるるるるるるる!」


 あまりの恐怖に、おもわず叫び声を上げてしまった。

 熊を前にしたときに、真っ先に取る行動としては間違っていると確信できる。

 その証拠に、私が叫び声をあげた途端、熊は唸り声をあげて襲いかかってきた。


 それからの自分の行動を、私はあまり覚えていない。

 どこかもわからない森の中を、無我夢中でひたすら走り回った。

 この状況もあとになって冷静に考えてみれば、とてもおかしなことだった。

 普通の人間が、熊から走って逃げられるわけがない。


 そんなことにも気がつかないくらい、私は死にたくはないという一心で熊から逃げていた。

 そうしてたどり着いたのが、切り立った険しい崖の上だったのだ。


「ど、どどどどどどどど、どうしよう?」


 目の前には底が見えないくらいの、深い谷がある。


「まずいまずいまずいまずいまずいまずい! このままじゃ絶対にダメだってええええ」


 背後からは熊が大きな足音を立てて迫ってくる。

 逃げ場はない。

 おもいきって熊と戦ってみるか。

 人が熊を投げ飛ばしただとか、そんなニュースを耳にしたことがある。


「いやいやいやいや、絶対に無理! 柔道とかやったことないもん。返り討ちにされるだけだあぁああ!」


 私にそんな芸当は無理だとすぐに頭を横に振った。武道の経験なんて皆無なのだ。


 では一か八か、目の前の崖を飛び降りるか。

 そんなことを考えていたとき、足元がぐらりと大きく揺れた。


「──っぎゃああああああああああ!」


 私はもう何度目になるのかわからない叫び声をあげる。

 目の前に熊の巨体が迫ってきた。

 熊がこちらに向かって、前足をおもいきり振り上げる。


 そのときだった。

 ふわりとからだが浮いたような、空中を歩いているような感覚に陥った。


「──っうぎゃああああああああああ!」


 巨大な熊の体重を支えられなかったのだ。

 足元の地面が熊の重さに耐えきれずに崩れ落ちたのだと気がつくのに、時間はかからなかった。

 目の前の熊が崩れていく崖と共に、谷底に向かって落下していく。 

 当然、切り立った崖の先端にいた私も、熊と一緒に落ちていく。

 真っ暗で見えない谷の底へ、吸い込まれていく。


「いやああああ、もう無理ほんと無理ぃいいいいいぃぃいいい!」


 これは自分の声なのか。

 そう疑いたくなるほどのみっともない叫び声を上げながら、なにかに掴まろうと必死に手を伸ばした。


 しかし、なにも掴むことはできなかった。

 手のひらがむなしく空を切る。

 そのうちに、私は意識を手放していた。


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