「なーにしてるの?」
後ろからの僅かな衝撃、首元にかかる微かな吐息、肩に感じる少しの重さ。
明日も仕事だから早く寝ろと言ったんだけど、なぜ私の言うことを聞いてくれないのだろうか。
「まだ原稿終わらないの?」
私がなにをしているのか答えなくてもあなたは知っているでしょうに。それに、今こうしてディスプレイを覗き込んでいる。
「まだ寝ないの? 明日も仕事でしょ?」
「うーん。一人じゃなかなか寝付けなくてね。だから一緒に寝よ?」
「ごめんなさい、今日は無理、今いいとこだから。私の文字を打つ速度だと、あと一時間は終わらないわよ。あと痛い、肩に爪が食い込んでる」
文字を打つ手は止めているけど、今頭に浮かんでいる景色を見失ってしまわないように、視線は前を向いたまま。あなたは私を振り向かそうと思っているのだろうけど、意地でも向いてやるものか。
「意地悪ぅ……」
どうしても私に向いてほしいのなら、私とディスプレイの間に割り込めばいいのに、あなたはそれをしない。そういうところも好き。
「私だってあなたと寝たいわよ。でもまだお風呂も入っていないから。そんなに私と寝たいのなら、私のパジャマ着て寝てもいいから」
「えー。でもなあ……うーん……。分かった! それで我慢する‼」
「いい子ね」
今あなたがどんな表情をしているかは見られないけど、あなたには笑っていてほしくて手を伸ばす。
「撫でてくれるの? えへへ、ありがとう!」
「当然よ。おやすみなさい」
「うん、お休み!」
私の背中から重みが消え、その残滓の温もりも、やがて消えてしまう。
まるで黄昏時が終わるように。
それが少し寂しいけど、いつか、いつでもその温もりを感じられるように、今日も私は世界を綴る。