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第21話「順調と好都合」

「左胴っ!」


「くっ……返しますっ!」


「甘いわ! そのままぶち抜いてあげるっ!」


 うんうん、いい調子だね。

 姫様とトリアの約束組手も平均10合は持つようになってきた。

 しかもそれなりのスピードで展開しているにも関わらず、だ。


 二人で訓練し始めてから、二週間。

 二週間でこれだ、正直末恐ろしいの一言に尽きる。


「それを――待っていたんですっ!!」


「え――あっ! ……参りました」


「ありがとうございましたっ!」


 本日最後の約束組手、戦績は四勝六敗と負け越したトリアではあるが、最初に六回負けた後全てを勝利している。


 姫様としては大人しく見切られたと思うべきだろうな、そう認めないと話にならないとも言えるが。


「ふぅ……トリア? いつから見切ったの?」


「はい、二戦目が終わった時点です。けど、中々実際には身体が動かなくて……」


「負け惜しみじゃなくて私もよ。多分、あのカウンターに対してサイドステップ回避からの突きが正解だと思うんだけど、身体が動かなくて」


「あ、だから最後重心の位置が変わっていたんですね? 納得しました、おかしいなとは思っていたんです」


「げ、そこまで見られてたのなら話は変わってくるわね……うぅん」


 その心配もなさそうだ。

 というか姫様? 流石にげってうめき声はどうかと思いますよ? お姫様でしょう?


 まぁ二人の間に遠慮が無くなった証拠だと思っておこうか。

 実際感想戦をとことんするには邪魔になるものだろう、もちろん一定の礼節は必要かも知れないけど、俺が言えたことじゃない。


「師匠はどう思いますか?」


「ん?」


「そうね、あんたの意見も聞かせてよ」


 何より二人共やる気が漲っている。

 訓練により集中するようになったとでも言うのか、向き合う姿勢が随分と積極的になった。


 トリアはわかりやすくあの帰り道の話に影響されたんだろうけど、姫様はどうしたんだろうか。


「そうですね、二人共若干頭でっかちになってきてますか」


「あたまでっかち?」


「考えすぎってことですか?」


 考えることは悪いことじゃない。

 というか、約束組手は戦闘思考力を鍛えるためのものだ、むしろ良いことだと言えるが。


「その通り。イマから続く手筋を……そうですね、二手までは読めるようになっているでしょう。しかし、二手先を絞れていない」


「絞れていない?」


「はい。ですが、こればかりは数をこなしていく他にないでしょう。何よりこれは剣術開発のためのステップです。俺なりの回答はありますが、鵜呑みにされても困る。しっかり感想戦を交わしあって、最善を追求していくべきですね」


「なるほど……」


 同時にそろそろ足りないものにも気づいてきた頃合いだろう。

 二人共回答は出ているのに身体が追いついていないって面もあるし、今のままやればお互いに対してだけのプロフェッショナルになってしまうともうすうす気づいているはずだ。


「ともあれ、今日はここまでにしましょう。しっかり休んで下さい」


「はいっ! ありがとうございました! 師匠!」


「ありがとうございました。えぇと、その……せ、せんせい」


「別に無理して呼ばなくても良いんですよ? あんたでもお前でも好きなように」


「うっさい! いいのよ! あんたは私の先生なんだから! 違う!?」


 いや違わないけど。


 ほんとどうしちゃったんだろうねこの姫様は。

 なんかトリアも困ったように笑ってるし、俺にはよくわからんよ。


「人を呼ぶくらいでどもるくらいならと思っただけですよ。それこそ好きなように呼んで下さい」


「こ、このっ!」


「あーあー! そ、そろそろボクお腹が空きました! 師匠! ご飯! ご飯食べに行きましょう!」


 え、あ、うん、そうだね。


 まぁあんた呼びされるよりは気持ちいいんだから、いっか。




「師匠ってほんと朴念仁ですよね」


「トリアこそ、ほんと俺に慣れてくれたよな」


 昼を騎士団と一緒に食べて、そのまま訓練を見て。


「もういちいち驚いたりしてたら身が持たないって思ったんですよ。ボクが悪いんじゃないです、師匠が悪いんです」


「なんだかなぁ。まぁ気楽にやれるなら何よりだよ」


 夕焼け小焼けで日が暮れたので帰り道。


 俺を含めてだろうけど、姫様ともトリアとも上手く関係を作れているだろう。

 順調にお仕事はこなせているし、弟子育成も同じく。


 なんとなく停滞を感じてしまうのは、多分魔法の練習が最近出来てないからだろうな。


 まだまだ未熟な俺だ、やりたいことを疎かにしているわけにもいかない。

 かと言って、トリアにしても姫様にしても、まだ俺の修行相手としては考えられないし。


「師匠? 何考えてるんですか?」


「ん? あぁ、最近魔法の練習できてないからどうしたもんかなってな」


「う……申し訳ないです。師匠のやりたいことを出来なくしてしまっているって自覚はあるんですけど」


「トリアに稽古するのも俺のやりたいことだから気にするな」


「うぅ……朴念仁のくせにそういう事言うの反則ですよね」


 知らないってば。


 けどなぁ、やっぱりなぁ……ん?


「トリア、ちょっと止まれ」


「え、は、はい」


 見えてきた自分の屋敷が、ちょっとおかしい。


 これは……。


「ふ、ふふ……」


「え? ど、どうしました? わ、悪そうな顔してますよ?」


 いやぁ……結構な規模の魔法やってくれてるじゃないか?

 なんだなんだ? 身体能力低下系の魔陣かぁ? いいじゃない、やるじゃない。

 周りに気取られないようにそこまで仕込むってことは、期待できそうじゃないか。


「いやぁ、ほんとさー丁度よくやってくれるよなぁ!」


「え? え? え?」


 よっしゃよっしゃ!

 これって多分シェリナも噛んでるだろ、てことは魔法派の仕業だな?


「トリア、一時間どっかで時間つぶしとけ」


「あ、はい、それは、構いませんが、師匠は?」


「あぁ、ちょっと……屋敷でシェリナと遊んでくる。どうやら今回はマジらしい」

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