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第14話「弟子はツッコミ名人」

「ベルガ殿、感謝する」


「ん? あぁ、いえ。こちらこそ申し訳ない。ビスタ君のことを侮っていた、ちゃんと彼は騎士でした」


 トリアの弟子入りと力は認められた。

 今は本人の荷物を片付けに、ビスタ君と有志たちが動いてくれている。


 自分でやりますよとわたわたしているトリアの姿に笑ってしまったのはさておき、訓練場に残っているのは俺とアーノイドさんだけ。


「そう言ってもらえると助かる。だが、それだけでなく、トリアのこともだ」


「それこそ申し訳ない。引き抜いてしまったようなものです」


 さっきからこちらが謝るべきことを先に謝られてしまって何とも言えない気持ちだ。


「いや。自分もトリアのことは気にしていたつもりだった、何とかできないかと。ヤツは誰よりも勤勉で努力家で、誰よりも頑固であった。自分が休めと言っても自主訓練してしまい、治せる怪我を治せなくなってしまうような」


「まだトリアとの付き合いは先ほどから始まった短いものですが、なんとなくわかります」


「それでも休めとしか言いようがなかった。治療に専念せよと言っても無茶ではなく無理をするものだから、雑用としての仕事を任せてはみたが……それは結局団員との不和や軋轢を生んだだけだった。やはり――」


「違いますよ」


 あぁ、と。

 どうして初めて会った時から俺に対して申し訳なさそうというか、遠慮するような顔をしていたのかわかった。


「違う、とは?」


「他でもないトリアですよ」


 自分に自信を持てなくなった人はここにも居たって話だ。

 アーノイドさんは派閥云々関係なく、現状を打破したくてもできなかった。

 そこに俺が現れて、この人ならと、そんな風に思ってしまった。


「トリア?」


「あいつが、なんで俺がちょっとアドバイスしただけであんなに動けるようになったんだと思います?」


「ベルガ殿の、指導の賜物であると」


「俺がやったことなんて、あいつに合ってる剣を見つけて、どう戦えば戦いになるかを教えただけ。基礎を教えたのはアーノイドさんでしょう? 動き方が拙いとは言え、しっかり騎士剣術だった。あなたが指導者として存在したからですよ」


「自分が……」


 納得いかないような顔をしているが、これは事実だ。

 あるいはあいつが腐りきらなかった理由の一つでもあるんだろう、アーノイドさんの存在は。


「ビスタ君にしてもそうだ。本気で根性から腐っていたなら、あの勝負はトリアが勝利していた。途中で恥とプライドを捨てて、トリアを対等な相手だと認めたからこそ、勝利できた。そうできたのは、あなたのおかげでしょう」


「……」


 仮に俺がアーノイドさんの立場に居たのなら、ああはならない。

 確かに俺は、幾分かここにいる人たちより剣の腕が立って、多少剣を教えるのが上手いかもしれないが。

 誰かの心を鍛えることなんてできないだろうから。


「自信を確信に変える作業、か」


「はい?」


「何、自分もまだまだこれからだと思った次第だ。改めてベルガ殿、感謝する」


「どういたしまして。一緒にこれからも精進しましょう」


「……ありがとう」


 そういって。

 晩餐会の時よりも、少しだけ強く握手を交わしあった。




「こ、ここが師匠の、お屋敷ですか」


「あぁ。そしてお前の家でもある」


「や、やめてくださいっ!?」


 トリアを家に連れてきた。

 というか、何故かこいつ騎士寮暮らしじゃなくて安い賃貸暮らしだった。

 見習いであっても一人前であっても、普通は寮で暮らすって聞いてたんだけどな。


「あんまビビるな。とりあえず部屋に案内を――」


「シッ――」


「ぴぃっ!?」


 頼もうかなーって思った時、背後から短剣の投擲がきて。

「おかえりなさいませ。いい加減殺されてもらえませんかねご主人様」


「ただいま。いい加減って言葉は俺のセリフだよ。いい加減諦めてくれないかな? シェリナ」


「え、あ、え? ……えぇ?」


 防壁プロテクション・ウォールで自動防御。ばちんという音と共に短剣が地面に転がった。


 きっちり失敗を認識した後、優雅におかえりなさいと一礼するシェリナの姿にトリアも困惑顔だ。


「そちらの方は?」


「弟子」


「左様でございますか。では、お部屋にご案内いたします」


「よろしく」


「あっはい、ありがとうございま――いやいやいやっ!? ちょっとボク、頭がついていけてませんよ師匠!?」


 いやぁ、トリアにはもしかしたら剣よりもツッコミというか、芸人の才能があるのかもしれないな。

 ほら、シェリナだってなんか笑いを堪えてるっていうか、ほんのり楽し気だし。


「慣れろ」


「慣れって!? 師匠!?」


「明日から修行を始める。差し当たって、姫様の剣術指南に連れて行くから覚えておくように」


「はいっ!? 姫様のところに!? 待ってください待ってください!? 師匠!? ボクの耳がいろいろおかしいです!?」


「おかしくないから安心しろ? じゃ、シェリナ。ちゃんと連れて行ってやれ。あと、流石にトリアを人質にしてどうのはするなよ?」


「かしこまりました。そして無論です、暗殺者はターゲット以外を巻き込みません」


「暗殺者っ!? なに!? 何ですかその物騒な単語!? もうすでに巻き込まれてますって!! あぁもうツッコミが追い付かない!? どうにでもしてくださぁああいっ!!」


 トリアがシェリナに引きずられていく姿を見送りながら。


 明日からちょっと楽しくなるなぁなんて、ぼんやり考えた。

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