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第7話「ツンツン初授業」

「おはようございます、ベルガ様」


「あー……うん、おはよう」


 何というか。


「やっぱこの起こし方、ちょっと刺激が強すぎない?」


「何を仰いますか。命を狙っていいと許可されたのはベルガ様で御座います。むしろ朝駆けをこうも簡単に回避された、私のアサシンとしてのプライドがぼろぼろです」


 お上品におほほと笑われながら、枕の隣にぶっ刺された短剣を見て冷汗が流れた。

 簡単に回避とは言われるが、割とわかりやすい素振りや雰囲気を出してくれるじゃん……もうただの脅しじゃん……。


「ともあれ朝食の準備が出来ております。お着換え、お手伝いいたしますね」


「そう言ってこないだ首狙ってきたじゃないか。いいよ、自分でやるから待っててくれ」


「かしこまりました」


 優雅に礼をしながら去っていくシェリナを見送って。


 陛下から下賜された王都内にある屋敷で四度目の朝を迎えた。

 一人……いや、専属侍女としてシェリナも同時に寄こされたから二人だが。

 それでも住むには大きすぎる屋敷だ。

 田舎の実家、何倍になるだろうか? 家族全員がここに住んだとしても広すぎる。


「よ、っと」


 短剣をベッドから引き抜いて、修繕リペアの魔法で元通り。


 ――これで遠慮なく物を壊しながらベルガ様を狙えますね。


 なんて、笑いながらのたまったシェリナに思うところはあるが。

 彼女はとても優秀で、この広い屋敷を完璧に管理してくれている。

 全て管理されているだけに、所々致死性のトラップが仕込まれていてるのはご愛嬌と言うべきか。


 客でも来たらどうするんだろうかと思わなくもないけどね。客なんて来ねぇって話だから安心だね。


「今日が初仕事だなぁ」


 着替えながら昨日正式に通達が来た内容を思い出す。

 まずは第三王女の剣術指南を行うことになった。


 他の姫様に関しては、第三王女の様子を見てから判断するそうだ。

 どれくらい強くなれるかとか、指導方法はとか、そのあたりを見たいんだろうな、普通に考えるのならば。


「剣術指南なぁ……」


 間違いなくカタリナ姫の突剣術というか、レイピアだったし細剣術か。何にせよあの剣は我流だ。


 初動、一手目で決着をつけるという考えはある意味理に適っているし、あの突進突きを避けられる存在はそういないだろう。


 つまり、自分にとっての正解を既に叩き出しているのだ。

 これを細剣術はこうだからと教えてしまっては歪みを生んでしまいかねない。


「姫様の目標は剣闘会に出場して勝ち抜き、剣聖になること。ならあの無意識に発動してしまう魔法を何とかするべき、だよな」


 陛下は姫様が魔法を無意識かつ無自覚に使ってしまっていることに気付いている。だから出場させなかった。

 もしかしたら剣聖にしたくないといった思いもあったのかもしれないが、出場させない理由に、自分の意志とは別で魔法を使ってしまうという理由はあっただろう。


 あるいはそう伝えて納得させるって選択もあったはずだが、カタリナ姫の様子を見るに説得されていないか説明されていないか、いずれにせよ納得はしていない。


「あんまり深く首を突っ込んでも仕方ないし……まぁそうだな、とりあえず違いを理解してもらうことから、かね」


 自分が魔法を使っていることを理解していない。

 素の自分の力量がアレだと思っているのは問題だ。


「しっかりわかってもらうところから、始めますか」




 そんなこんなでやってきましたのは、王族のみが立ち入れるという訓練場だが。


 訓練場というには真ん中に噴水がありーの、お花畑がありーのと、お茶会でも今から始まっちゃうんじゃないかと思ってしまう中、所々に配置された木人かかしが訓練場であることを辛うじて思い出させてくれる。


 一言でいえば、なんだこのカオスな場所はってところだった。


「来たわね、ベルガ」


「おはようございます姫様。今日もご機嫌……麗しくはないようで」


 噴水前でぽつんと待っていたカタリナ姫だったが、わかりやすく嫌々ですと顔に書いてある。


「別に、お父様との約束だし」


「仕方ない、ですか」


「そうよ、仕方なくよ仕方なく! あんたに教えてもらってもっと強くなりたいなんて思ってないんだからね! 勘違いしないでよ!」


 おおう、別にどう思ってもらっていても構わないんだけど。

 少なくとも、どういう形であれ強くなりたいという欲求はあるみたいで何よりだ。


「では早速始めましょうか」


「ふんっ! 何よ、まずは素振りでもやればいいの?」


「基本は大事です。ですのでそう言いたいところではありますが、こちらへ」


 我流剣法に素振りもクソもない。決まった型が定められていないわけだから。


 とりあえずカタリナ姫に今必要なのは、自分の力を正しく理解してもらうことだ。


「木人?」


「手ごたえがあるほうが良いでしょう?」


 何よわかってるじゃない、なんてちょっと気分を良くしたのか少しだけ笑いながら胸を張ってくれる。


 改めてカタリナ姫を観察すれば極めてしなやかな身体をしていた。

 こうして訓練着だろう、薄着の姿をされたらよくわかる。


 動きの邪魔にならない程度、しかし女性らしさを主張する胸。

 運動神経が良いですよと示す丸みを帯びた臀部。メリハリの利いた身体と言えるだろう。

 太ももにしても二の腕にしても、しっかりと引き締まっていて余分な肉だと感じさせない。


「なんだか目つきがやらしいんだけど?」


「あぁ、申し訳ありません。改めていい身体だなと」


「んなっ!?」


 さっとすんばらボディを抱えられる。もうちょっと見ていたかったんだけどな。


「いえ、美しいと評されるのにも頷けます。非常に戦うことに向いた身体です」


「えっ!? あっ!? そ、そうっ!? そういう、ことねっ!?」


 本当にそう思う。

 身体つきにしてもそうだが、この容姿だ。


 肩甲骨まで届く長めの赤髪に、釣り目の中に意志を感じる強い瞳。

 スピードを重点とした戦い方を見れば、たなびく髪が閃光のように見えることだろう。


 まさに、戦う美といったところか。


「重ねて失礼しました。訓練を行いましょう」


「そっ! そうねっ! それがいいわ! それで!? 木人を使うってどうするの!?」


 なんだか声が上擦っているがどうしたんだろうか。


 まぁいい。


「これを使います」


「……? 紙?」


「はい。これを木人に張り付けて……見ていてくださいね?」


 軽く木刀で小突いてみれば。


「えーっと? 3点?」


「今の突きの威力を数値化して表したものです。満点は100点、満点を大きく超えてしまえば木人が壊れます」


 昔愛用していたマジックアイテムだったりする。

 もう今は相当手加減しないと壊してしまうから日の目を見なくなったものだけど、まさかこんな形で役立つとはね、保管しててよかった。


「……面白そうねっ!」


「でしょう? まずは準備運動がてら好きに突いてみましょうか」


「わかったわっ!」


 さて、それじゃあじっくり解析させてもらいましょうかね。

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