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第4話「ただでは終わらない顔見せ」

「ベルガ・トリスタッド」


「はっ!」


 名前が呼ばれた。

 胸に手を当て、右足を一歩引き、頭を下げる。


「ふふ、この短い間にサマになったではないか。近くに」


「ありがとうございます。失礼いたします」


 ちこうよれの言葉に、何とも言えないやっかみ交じりな視線を感じながら歩みを進めて。


「紹介しよう。余の娘たちだ」


 うーわ、陛下自らの紹介とかえぐいな。

 しかも貴族やら騎士団長様やら、お偉いさまというか権力者が集まった中でやりますか。


 豪胆というかなんというか。

 出自が平民って問題を問答無用で解決してやるぞ、なんて所なのかもしれないが、正直胃が痛いです。


「第一王女、アルル・シャル・クルセーヌ・フォラウ・ベロニカと申しますわ~。よろしくお願いいたしますぅ~」


 おっぱい!

 おっぱいがしゃべったぁ! 流石姫様名前なげぇし乳もなげぇ!? 谷間ふっか!!


 お、おち、お乳つけ!?

 いやでもさ、軽く頭を下げられただけなのにさ!? たゆんって! たゆんって弾んだぞ!?

 あぁあぁおやめください! ドレスの裾を摘まんで屈しないでください! こ、こぼれるっ!?


「第二……王女……メル、よろしく」


 あ、落ち着いた。でこぼことはこのことか、つるぺったんたん!

 というかとても気だるげだ。大丈夫? 起きてる? それとも風邪ひいてる? 治療しようか?


 見るからに言われて仕方なくって感じがすごいな。

 キレイな礼をしてくれたけど、それだけにオーラが真逆で面白いとすら思ってしまう。


「……」


 じゃあ最後にと第三王女様のほうへと目を向ける、が。


「あの?」


「……」


 すんごく睨まれてます。

 燃えるような赤髪の熱が瞳に移り宿っているかのように、敵意がびしばしと伝わってくる。


 え? 俺なんか悪いことしたっけ? 振る舞いが癪に障ったなら謝る準備はいくらでもあるけど。


「どうした。名乗らんか」


「――嫌ですっ! お父様!」


 痺れを切らしたのか、陛下が促してくれたけどもさ。

 ……まぁお姫様だ、礼儀だ何だを向けられる資格のようなものを俺は持ってないしなぁ。


「カタリナ、先も言ったはずだ。ここはお前の私情を挟む場ではない。ベルガという新しき剣聖を祝う場であると」


「いいえっ! あの剣闘会に私が出場していたら! このようなモノが剣聖になっておりませんでした! 私は! この男を認めておりません!」


 あ、陛下の額に青筋が見えた。


 ……うーん。

 けど、後ろから漂ってくる気配はそうだとでも言わんばかりの雰囲気で、第三王女様……カタリナ様の言っていることに同意している感じがある。


 仕方ない。


「カタリ――」


「陛下お待ちを。姫様、私が剣聖と認められないとは、何故でしょうか?」


 王の口を遮るなんて無礼もいいところだけど。

 少なくともここは親子喧嘩をする場所ではないことは確かだ。


「ふんっ! あなたの剣、見たわ。なかなかやるじゃない」


「ご高覧とお褒めの言葉、光栄の至りです」


「けどねっ! あんなのお遊びもいいところよ! 私のほうが強いわ!」


「なるほど」


 つまり自分より弱いヤツに下げる頭はないってことね。

 言葉で態度で、両手を腰につきながら形の良い胸を張って、しっかり見下される。


 んー、まぁ確かに。


「な、なによっ!」


 スカート部分の短いドレスから見える脚。

 実にしなやかな筋肉の付き方をしている。片手間で鍛えられたものではない。


「姫様は、突剣か何かを?」


「っ!? そ、そうよ! 悪いっ!?」


 突剣、つまりは細突剣レイピアといったような武器で突きを主体とする剣技の使い手だ。

 速さこそが何より必要だって認識が強いものだが、一番必要なのは柔軟性だ。

 そのことをよくわかっている鍛えられ方だね。自信に見合うだけの訓練はしてるんだろう。


「私が出場していれば、剣聖になれた、と」


「当り前よ! レベルが高い大会だって言われてたけど! 誰よりも私が強かった!」


 アルル様はおろおろたゆんたゆんとされているが、メル様は全く興味がないと素知らぬ顔。

 そんな中で陛下は、カタリナ様へと厳しい視線を向けたまま。


 ……あれ? これはチャンスでは?


「わかりました。ならば勝負致しましょう」


「ベルガっ!」


「申し訳ありません、陛下。ですがこれは授業です。剣術指南の時間が少し早くやってきただけのことです。しかし、もしも万が一。私が姫様に敗北するようでしたら……剣聖の称号、姫様へとお譲りしたく思います」


「へぇ……?」


 そうだよこれはチャンスだよ。


「お父様。私、この勝負受けたく思います」


「……」


「男からの申し出を無下にするなとはお父様の教えではありませんか?」


 難しい顔をした陛下の目が俺に向く。

 ここで笑ってじゃあお好きにどうぞって言わないのは、ある程度以上に姫様の腕を認めているからなんだろうな。


 万が一がある、そう思っているんだ。

 俺の剣を信用されてないって思えば悲しくもあるけど、正直認められたいのは魔法の腕なもんで。


「陛下。是非改めて、私の本気をご高覧頂きたく思います」


「本気? よもやベルガ、お主」


「もちろん姫様を傷物にしたいなんて気持ちは御座いません。しかし、察するに姫様の腕はかなりのもの……心配され不安に思われるほどに勝負の結果が見通せない。ならばこそ、ここでしっかり教えて差し上げることこそ、指南役としての役目であります」


 そうとも、本気を出せる、出していいチャンスだ。


 確かめたいんだよな。たぶんこの姫様は強い。

 後ろでがやがやしてる貴族連中は姫様の勝利を疑っていない雰囲気があるし、陛下自身も強いと認めている節がある。


 正直、あの大会は姫様と同意見で、話にならないレベルだった。

 ならここで改めて実力者ってやつを体感してみたい。


 そして可能なら認めてもらった上で魔法の練習相手になってほしい……って、そりゃ欲目で下心だろうが。


 剣闘会と同じルールでやるなら魔法は使えないけれど、だからこそ剣の腕が立つ人ってのを測ることができるし、ほんとある意味丁度いいさ。


「あなた」


「如何なされましたか?」


「このようなモノという言葉は撤回するわ、いい度胸をしてる。そして改めて名乗りましょう、私は第三王女、カタリナ。あなたから剣聖を奪う女よ」


 もう勝ったつもりでいらっしゃる。よっぽど自信がおありのようで。


 まぁいいや、とりあえず。


「王女様方の御名乗り頂戴いたしました。私、この度剣聖の称号を戴きましたベルガ・トリスタッドと申します。皆様のお力になれますよう、微力を尽くします」


 これでようやく名乗り返せるってもんだ。


 ね? 陛下。


「――よかろうっ! その勝負認める! ただちに準備せよ!」


「はっ!」

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