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第2話「協力者は暗殺者」

牙攻撃封印バイト・ブロック


「っ!?」


 身体を拘束した。

 こうなってしまえば、暗殺者にとっては詰みの状況だ。

 ならどうするのかと言えばもう死ぬしかないだろうってことで、舌を噛み切られないように魔法をかける。


「ちょっとごめんよ」


「あぇっ!?」


 力の入らなくなった、顎が外れたような状態の咥内へと指を突っ込んで探し物。

 眉唾ではあったんだけど……まじか、やっぱり奥歯に致死毒仕込んだりしてるんだ。


毒無効アンチ・ポイズン


「あうっ……」


 後は何かあったっけ? あぁ、服の何処かに服薬毒を隠し持ったりしてるんだっけか。


「うーん」


 調べなきゃだめか? ほんとにだめか?

 そうするってことは、女の人の身体を触るってことなんだけど。


 こうして無抵抗の女の人を弄るって、ちょっと犯罪臭すごいよね、興奮して――ないよ?


「あい、するぅれすあ」


「何するんですかって? 丁度よかった、死なないって約束してもらえたら助かるんだけど」


「……っ」


 そんなに睨まないでくれよ、ほんとにいけないコトしようとしてるみたいじゃないか。

 もう十分イケナイことしてるじゃんってのは勘弁してくれ、自衛です。


 でもこりゃだめだ、拘束を解いたらすぐ死ぬわこの人。

 お互いに私怨なんてものはないはずだけど、そこら辺のことを教えてくれるわけもないだろうしなぁ。


「もう一度聞きたいんだけど、初対面だよね? キミの家族を知らない内に傷つけてしまったとか、そういう事実はないよな?」


「……」


「私怨があるって言うなら聞くし、内容によっては全力で償う。けど、そうじゃないなら困るんだ。キミをどう扱ったものかってね。別に飼い主のことを暴きたいとかじゃないけど、素直に答えてくれないかな」


 本名かどうか怪しいものだけど、シェリナの表情は変わらない。

 睨みつけてきたまま、俺の真意を探るかのような瞳を向けてくる。


 女の人を殺したくないって気持ちはあるけど、だからと言って危害を加えようとしてきた人に対して向けるものでもない。

 このまま何も話さないなら、最終的に殺しを含めた処理を考えなくちゃならないだろう。


 はぁ……仕方ない。大サービス。


「キミが不本意の下で俺を殺そうとしたのなら、不本意の大本を解消してあげる」


「っ!?」


「取引をしよう」


 脅す形になっているのはなんとも言えないけど。

 右も左もわからない現状だ、最善手と思ったことが悪手になる可能性は高い。


「はっきり言って俺は無知が過ぎる。陛下に言われたように礼儀……宮廷作法なんて言うんだっけ? そんなのもわからないし、何故こうして命を狙われたのかもわからない」


「っ……」


「わかるよな? 色々教えてくれる人が必要なんだよ、格好つかない話だけどね」


 現状を知るだけなら、支配や魅了の魔法で可能ではあるけれど。

 事情に詳しい協力者は必要だし、出来れば自ら進んで味方となってくれる人が欲しい。


 何より、今代の剣聖を決める大会だってことを知らないで出場して優勝してしまうなんて抜けてる俺だ。しっかり者がそばに居てくれるなら心強い。


 従うふりをしながら、騙そうとしてくるなんてリスクはあるにしても、ね。


「わはい、まいた」


「よかった。賢明な判断だと思うよ、俺が言うことでもないけれどね」




 これで仕切り直し。

 かけていた魔法を解除して、面と向かってお話し合いの始まりだ。


 面紗を取ってもらえば、予想通りで想像以上の美人さんが現れた。

 銀髪赤目、キリリと締まったタイプの顔立ちで、いかにも出来る人って感じ。


 とりあえず自称でも構わないから、シェリナの素性を会話の取っ掛かりがてらに聞いてみれば。


「私は、魔法派に属しているアサシンです」


「あ、やっぱ聞きたくなかったな」


 取っ掛かりで終了のお知らせである。

 派閥って言葉が出た時点で逃げ出したい気持ちがいっぱいだ。


「あの?」


「なんでもない。なんたら派って単語が出るってことは、派閥争いだなんだをしてるってことだよな?」


 自分で言ったことだし、逃げ出すわけにはいかないけどさ。


「はい。剣聖となられましたベルガ様は、当然ながら剣派の筆頭となり得る存在です。魔法派の者としては排除したい存在とも言えます」


 ちょっと色々すっ飛ばしてるけど、要するに剣派と魔法派で争いが起きてるのかな。

 表面化してるか水面下としてかはまだわからないが。安直に考えるならどちらがより優秀な武力かどうかなんて競い合ってるんだろうか? だとするなら馬鹿らしいにもほどがあるけど。


「剣聖が魔法派にとって排除したい存在、ね。だったら今までの剣聖にも暗殺者を仕向けたりしていたのか?」


「いいえ。申し上げにくいのですが、ベルガ様は平民ですし、そもそもこの国出身じゃないご様子。剣派にとっても、平民が剣聖の称号を得ることに難色を示している方が多くいらっしゃいますので」


 なるほど。言いにくいだろうことをずけずけとありがたい。


 何にせよ剣派にとっても、魔法派にとっても俺は邪魔な存在なわけだ。

 だからと言って称号授与からすぐに動くってのは短絡的というか、拙速がすぎる話だが。


 はぁ、俺ってば孤立無援もいいところね。

 やっぱりシェリナさんを味方につけようとしているのは正解だな。


 いや、今はいいか。

 それよりも、まずは。


「わかった。それで、シェリナ」


「はい」


「とりあえずキミの飼い主を殺せばいいか?」


「はいっ!?」


 言っておいてなんだけど、俺も大概順序ってやつをすっ飛ばす方だな?


 シェリナの驚く顔が見たくてってことにしておこうか。


「忠義の名の下に殺しの命令を受諾したわけじゃないんだろう? なら、弱みを握られているって考えるのはおかしいかな?」


「それは」


「冗談だよ。けど、本気で必要ならやる。キミは救われ方を考えるだけでいい、俺はそれを叶えよう」


「……」


 当たり前だけど好き好んで殺しなんざやりたいとは思ってない。

 平和的に解決できるのならそれが一番だ。ただ、この人を味方に出来るなら。


「……ベルガ、様は」


「うん?」


「どうして、私にそこまで言えるのでしょう」


 どうして、ねぇ。


「多くのことを話したつもりはありません。むしろ、僅かであっても口にしたこと全てが偽りであり、あなたを殺す仕事の延長線上に今があるとは、思われないのですか?」


「思ってるよ」


「ならっ!」


「そう、だから全力で力になろうとしてるんだよ。信用が欲しければ先に自分から信用しろなんて言うけどさ、協力したい、裏切りたくない……こっちに付いたほうが得だって思われるほうが、随分気が楽だろう?」


「な、ぁ――」


 信用、信頼は積み重ねの上に築かれるものってのに異論はない。

 だけど、積み重ねの内容がこうあるべきだって決まりはないはずだ。


「まぁ、考えておいてくれると嬉しい。やっぱり嫌だってもう一度殺しに来ても構わないし、なんならうまーく俺を騙して、自分の良いように使ってくれたっていい」


 シェリナさんを味方にはしたい。

 ただ、取り繕った自分で居続けるのは限界がある。


 だったら最初から、いい顔なんてしないで素を出していこう。


「……一つ、だけ」


「うん?」


「ベルガ様が私を信頼、信用していませんように、私もベルガ様を信用しておりません。ですので、私にとってあなたへ侍ることが、現状よりも利が多くなると判断できるまで……あなたの命をお傍で狙いますことを許されたく思います。無理ならば今、私を殺してくださいませ」


「殺さない。わかった、全部許すよ。じゃあそのためにも」


「はい」


「恥かかない程度に、作法教えてもらっていいかな? あんまり時間はないし、生徒のできはよくないけどさ」


 俺ってばほんとに田舎者のモノ知らずだからなぁ……。


「ふふっ」


「うん?」


 申し訳ないな、なんて思って言ったつもりだったんだけど。

 何がシェリナさんのツボをつついたのか。


「いえ、かしこまりました」


「ん、よろしくおねがいします」


 裏表を感じない、キレイな笑顔を浮かべてくれた。

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