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第51話 君の全てに恋をした。

「おはよ、晴翔」


「んぅ。ふぁ〜ぁ。おはよう、葵」


「ふふっ、寝癖ついてるぞ。だらしないなぁ」


 葵と付き合い始めて一週間が経過した。


 あの日、想いを伝えて。二人で好きを確認し合って幼なじみから卒業した。


 そしてーーーー


「な、なぁ。晴翔……今日もその、いいか?」


「もちろん」


「へへ……ありがと」


 一日の始め。つまり学校に行く前に集まるこの時間に、キスをするようになった。


 なんでも葵が″おはようのキス″に憧れがあったらしくて。こうやって毎日、人が通らないことを確認してからキスをして家を出る。


 やっぱり葵は乙女だ。どれだけ男勝りな口調をしていても、根っこの部分の女の子が何度も顔を出してきて。その度にドキドキさせられている。


「よっし、元気出た。行こ!」


「おい待て。まだやる事、一つ残ってるだろ」


「……今日は寝ぼけてるみたいだし、いけると思ったのに」


「ナメんな。こちとらこれを一日の活力にしてんだぞ」


 加えて、もう一つ。追加された日課がある。


「こ、これでいいか?」


「ふむ。今日のお尻は昨日よりもハリがあるな。お、朝ごはんが大好きな目玉焼きだったからか。あと今日は朝のランニングを少し距離伸ばしたな。お尻のラインがより引き締まってーーーー」


「怖い怖い怖い怖い!! なんでそこまで全部正確に当てれんだよ!?」


「? 普通、お尻を見たら分からないか?」


「分かってたまるか……」


 そう。お尻鑑賞である。


 葵が彼女となり、改めて他のお尻に浮気をしないよう考えた結果がこれだ。毎朝キスの後に必ず一番大好きなお尻を観察し、他に目移りする暇も無いよう目に焼き付ける。……と、それっぽい口実を作っておねだりし、手に入れた至福の時間だ。


「はぁ。ほんっと、私の彼氏はド変態すぎ。別れようかな……」


「っ!? い、いやそれは待ってくれ頼む!! 葵がいなくなったら俺はーーーー」


「いや冗談! 冗談に決まってんだろ! せ、せっかく大好きな奴と付き合えたんだぞ? こんな幸せ……手放してたまるかよ」


「へっ!? そ、そっか」


「……」


「……」


 じ、自分で言っといて照れるなよ。こっちまでいたたまれなくなるだろ。


 でも、やっぱり照れてる顔も可愛いな。


「い、行きますか」


「……うん」


 差し出した右手に添えられた左手は、やがて指の一本一本まで全てを絡めて恋人繋ぎを完成させると、ぎゅっ、と力を込める。まるで、絶対に離したくないとでも言わんばかりだ。


「あっ! ラブラブカップルがいる〜! おは〜!」


「っっ!? よ、夜瑠!? おま、誰がラブラブだ! 誰が夫婦みたいだッッ!!」


「あはは〜。そこまで言ってないよ〜?」


「おわ、騒がしいと思ったらバカップル。朝から何砂糖ばら撒いてんだお前ら」


「だ、誰が新婚カップルみたいだと!?」


「言ってねえって。怖っ……」


 この先も、俺たちの日常は続いていく。


 大好きな幼なじみは大好きな彼女へ。お尻から始まったと思われたこのラブコメの行く末は、一つの結論に結びついた。




ーーーー俺は、君の全てに恋をした。

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