「おはよ、晴翔」
「んぅ。ふぁ〜ぁ。おはよう、葵」
「ふふっ、寝癖ついてるぞ。だらしないなぁ」
葵と付き合い始めて一週間が経過した。
あの日、想いを伝えて。二人で好きを確認し合って幼なじみから卒業した。
そしてーーーー
「な、なぁ。晴翔……今日もその、いいか?」
「もちろん」
「へへ……ありがと」
一日の始め。つまり学校に行く前に集まるこの時間に、キスをするようになった。
なんでも葵が″おはようのキス″に憧れがあったらしくて。こうやって毎日、人が通らないことを確認してからキスをして家を出る。
やっぱり葵は乙女だ。どれだけ男勝りな口調をしていても、根っこの部分の女の子が何度も顔を出してきて。その度にドキドキさせられている。
「よっし、元気出た。行こ!」
「おい待て。まだやる事、一つ残ってるだろ」
「……今日は寝ぼけてるみたいだし、いけると思ったのに」
「ナメんな。こちとらこれを一日の活力にしてんだぞ」
加えて、もう一つ。追加された日課がある。
「こ、これでいいか?」
「ふむ。今日のお尻は昨日よりもハリがあるな。お、朝ごはんが大好きな目玉焼きだったからか。あと今日は朝のランニングを少し距離伸ばしたな。お尻のラインがより引き締まってーーーー」
「怖い怖い怖い怖い!! なんでそこまで全部正確に当てれんだよ!?」
「? 普通、お尻を見たら分からないか?」
「分かってたまるか……」
そう。お尻鑑賞である。
葵が彼女となり、改めて他のお尻に浮気をしないよう考えた結果がこれだ。毎朝キスの後に必ず一番大好きなお尻を観察し、他に目移りする暇も無いよう目に焼き付ける。……と、それっぽい口実を作っておねだりし、手に入れた至福の時間だ。
「はぁ。ほんっと、私の彼氏はド変態すぎ。別れようかな……」
「っ!? い、いやそれは待ってくれ頼む!! 葵がいなくなったら俺はーーーー」
「いや冗談! 冗談に決まってんだろ! せ、せっかく大好きな奴と付き合えたんだぞ? こんな幸せ……手放してたまるかよ」
「へっ!? そ、そっか」
「……」
「……」
じ、自分で言っといて照れるなよ。こっちまでいたたまれなくなるだろ。
でも、やっぱり照れてる顔も可愛いな。
「い、行きますか」
「……うん」
差し出した右手に添えられた左手は、やがて指の一本一本まで全てを絡めて恋人繋ぎを完成させると、ぎゅっ、と力を込める。まるで、絶対に離したくないとでも言わんばかりだ。
「あっ! ラブラブカップルがいる〜! おは〜!」
「っっ!? よ、夜瑠!? おま、誰がラブラブだ! 誰が夫婦みたいだッッ!!」
「あはは〜。そこまで言ってないよ〜?」
「おわ、騒がしいと思ったらバカップル。朝から何砂糖ばら撒いてんだお前ら」
「だ、誰が新婚カップルみたいだと!?」
「言ってねえって。怖っ……」
この先も、俺たちの日常は続いていく。
大好きな幼なじみは大好きな彼女へ。お尻から始まったと思われたこのラブコメの行く末は、一つの結論に結びついた。
ーーーー俺は、君の全てに恋をした。