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第50話 大好き

 本当、遅い。


 なんだよそれ。昔から私のことが好きだった? お尻が大好きすぎたせいでそれしか見えなくなって、とっくの昔に全部大好きになってることに気づいていなかった?


 ド変態め。私の幼なじみは、なんでこう……


「最初から、そう言っとけよな」


 キスは甘い味がする、なんて言うけれど。


 そんなことはない。唇同士を合わせただけじゃ味なんてしないし、それは所詮漫画の中でしか使われない妄想の話だ。


 でも……温もりは、感じる。


 離れた唇にはまだほんのりと晴翔の体温が残っていて、余韻となり私をドキドキさせ続ける。


 暖かくて、幸せで。大好きな人とするキスがこんなにも嬉しいものだなんて、想像もつかなかった。


「へへ、ファーストキスあげちった。お前、ほんと責任取れよ?」


「せ、責任!?」


「そうだ、責任だ。私を惚れさせて、初めても奪ったんだ。その……ほ、他の子とかに靡いたら、引っ叩くからな」


 声が震える。いつものように上手く喋れない。


 ああ、クソ。かっこよく返事する方法、いっぱい考えたたのになぁ。晴翔から好きって言われた瞬間、全部弾け飛んだ。


「そ、そんなことしないって!」


「本当かぁ? お前、すぐに他の子のお尻に浮気しそうだしなぁ」


「何言ってんだよ! 俺の中の一番は昔からずっと、葵のままだっての!!」


「へ? あ、ひゃひ……」


 なんだよ。なんなんだよ。


 ただお尻を褒められてるだけなんだぞ? こんなのにドキドキすんな。私は晴翔とは違うんだ。


「じゃ、じゃあ、その……」


 そうだ。言ってやれ。ズバッと! 私の思ってることを!!


「もう……私の、彼女のお尻以外、見んなよな」


 ち、違う! 違うって! ああもう、そうじゃないだろ!? 


 ずっと一緒にいるから晴翔の変態が移ったのか!? くそぅ、なんだよこれぇ……。


 上手く思考がまとまらず、つい漏れ出てしまった言葉に、顔が熱くなる。


 もしかしてこれが「嫉妬」というやつなのだろうか。


 私以外の女の子を見て欲しくない。大元を辿ればそんな、きっと他の女の子も考えるであろう普通の感情なのに。


 やっぱり晴翔のせいだ。晴翔が一番に惹かれるのがお尻だから。そしてそれを、私も理解してしまっていたから。あんなことを言ってしまった。


「……つまりそれは、葵のお尻ならいくらでも見ていいってことか?」


「や、やっぱり今の無し!! 無しだッッ!!」


「んな殺生な!?」


 ほんと、なんでこんな変態を好きになったかなぁ。


 もっと顔が良い奴も、変態じゃない奴も。この世にはゴロゴロいるはずなのに。


「ぷっ……ははっ。はははっ」


「な、何笑ってんだよ!? オイ、俺にとっては死活問題なんだぞ!?」


 それでもやっぱり、私はコイツのことが大好きなんだ。


 一緒にいて一番楽しいのも一番ドキドキするのも、私にとっては全部晴翔で。きっと他の誰が相手であったとしても、これ以上の好きは味わえない。


 私は、私が思っている以上に……


「なあ、晴翔」


「な、なんだよ」


「ーーーー大好き♡」





 コイツ無しじゃ、生きていけない身体になってるんだな。

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