本当、遅い。
なんだよそれ。昔から私のことが好きだった? お尻が大好きすぎたせいでそれしか見えなくなって、とっくの昔に全部大好きになってることに気づいていなかった?
ド変態め。私の幼なじみは、なんでこう……
「最初から、そう言っとけよな」
キスは甘い味がする、なんて言うけれど。
そんなことはない。唇同士を合わせただけじゃ味なんてしないし、それは所詮漫画の中でしか使われない妄想の話だ。
でも……温もりは、感じる。
離れた唇にはまだほんのりと晴翔の体温が残っていて、余韻となり私をドキドキさせ続ける。
暖かくて、幸せで。大好きな人とするキスがこんなにも嬉しいものだなんて、想像もつかなかった。
「へへ、ファーストキスあげちった。お前、ほんと責任取れよ?」
「せ、責任!?」
「そうだ、責任だ。私を惚れさせて、初めても奪ったんだ。その……ほ、他の子とかに靡いたら、引っ叩くからな」
声が震える。いつものように上手く喋れない。
ああ、クソ。かっこよく返事する方法、いっぱい考えたたのになぁ。晴翔から好きって言われた瞬間、全部弾け飛んだ。
「そ、そんなことしないって!」
「本当かぁ? お前、すぐに他の子のお尻に浮気しそうだしなぁ」
「何言ってんだよ! 俺の中の一番は昔からずっと、葵のままだっての!!」
「へ? あ、ひゃひ……」
なんだよ。なんなんだよ。
ただお尻を褒められてるだけなんだぞ? こんなのにドキドキすんな。私は晴翔とは違うんだ。
「じゃ、じゃあ、その……」
そうだ。言ってやれ。ズバッと! 私の思ってることを!!
「もう……私の、彼女のお尻以外、見んなよな」
ち、違う! 違うって! ああもう、そうじゃないだろ!?
ずっと一緒にいるから晴翔の変態が移ったのか!? くそぅ、なんだよこれぇ……。
上手く思考がまとまらず、つい漏れ出てしまった言葉に、顔が熱くなる。
もしかしてこれが「嫉妬」というやつなのだろうか。
私以外の女の子を見て欲しくない。大元を辿ればそんな、きっと他の女の子も考えるであろう普通の感情なのに。
やっぱり晴翔のせいだ。晴翔が一番に惹かれるのがお尻だから。そしてそれを、私も理解してしまっていたから。あんなことを言ってしまった。
「……つまりそれは、葵のお尻ならいくらでも見ていいってことか?」
「や、やっぱり今の無し!! 無しだッッ!!」
「んな殺生な!?」
ほんと、なんでこんな変態を好きになったかなぁ。
もっと顔が良い奴も、変態じゃない奴も。この世にはゴロゴロいるはずなのに。
「ぷっ……ははっ。はははっ」
「な、何笑ってんだよ!? オイ、俺にとっては死活問題なんだぞ!?」
それでもやっぱり、私はコイツのことが大好きなんだ。
一緒にいて一番楽しいのも一番ドキドキするのも、私にとっては全部晴翔で。きっと他の誰が相手であったとしても、これ以上の好きは味わえない。
私は、私が思っている以上に……
「なあ、晴翔」
「な、なんだよ」
「ーーーー大好き♡」
コイツ無しじゃ、生きていけない身体になってるんだな。