「〜〜ッッ!!」
葵の顔が真っ赤に染まり、視線が逸れる。
もじもじして、そわそわして。そして指弄りをしながら震える声で、言った。
「どこが、だ? どこが、好きになったんだ?」
俺は葵のお尻を好きになった。どれだけ考えても、やっぱりその結論だけはブレなくて。
でも、一度フラれて。その痛みを知ってから幼なじみに戻ると、見えてくるものがあった。
今となってはあの時、告白に成功しなくてよかったと思う。だってもしあの時付き合えてしまっていたら……この質問に、俺はしっかりと答えられなかったと思うから。
「俺さ。葵のお尻が好きだって告白したろ?」
「……うん」
「あの時は、本当にそうだと思ってたんだよ。顔が好きだからとか、性格が好きだからとか。そういう、一つの理由だけで告白するシチュエーションと同じ。大好きな一つがあると、他が見えなくなるんだ」
だから俺は考えた。
もし葵のお尻が、葵のお尻じゃなくなったら。俺のこの好きはどうなるのかって。
好きという言葉の定義は人それぞれだ。でも俺にとっての一番信頼できる指標は、やっぱりそれで。
「俺は葵のお尻が好きだ。今でも大好きだ。でも、たとえそれが無くなったとしても。結局この気持ちが変わることはないんだよ」
葵の照れる顔が好きだ。いつもは男勝りなのに、俺の前でだけ見せてくれる女の子の表情には、いつもドキドキさせられる。
葵の心根が好きだ。意外と乙女思考なところとか、素直に気持ちをぶつけてくれるところとか。そんな葵と一緒にいると、本当に心地がいい。
葵のお尻が好きだ。普段から努力を欠かさないからこそ維持されているプロポーションには、何度元気を貰ったか分からない。どんなに落ち込む方があっても、葵のお尻があるだけで立ち上がれた。
好きなところなんて、挙げていけばキリがない。お尻という突発的な″大好き″に隠されてしまっただけで、きっと昔から……俺の気持ちは、変わっていなかったんだと思う。
「俺は、葵の全部が好きだ。お前を意識するようになったあの日にはもう、全部好きだったんだ」
本当、幼なじみってのは厄介だよな。こうやって四六時中一緒にいる仲じゃなかったら、もっと早く気づけていたかもしれないのに。
いや……違うか。
その積み重ねた日々こそが、この気持ちを膨らませていったんだ。
ずっと一緒にいたから、もっともっと大好きになれた。葵の大好きなところを、幾つも見つけることができたんだ。
「だからこれからはただの幼なじみじゃなくて、彼氏として。お前と一緒にいたい。い続けたい。……どう、でしょうか」
伝えたいことは全部伝えた。
ああ、怖いな。俺が言葉を終えて何秒経った? 五秒か……十秒か?
たった数秒の沈黙が無限のように感じる。湧き上がる緊張に押し潰されそうだ。
「……」
そして、少しして。まともに顔も見ることができず下を向く俺の頬に、暖かな感触が触れる。
柔らかい。細くて、小さくて。そんな、大好きな人の手だ。
「…………遅いんだよ、バカ」
「っ!?」
刹那。微かな声が耳に届いて。
ーーーー唇を、奪われていた。