葵をただの″幼なじみ″として見ることができなくなっのたは多分……中学二年生の時だ。
「? なんだよ晴翔。どうかしたか?」
「へっ!? い、いや! 別に!!」
中学二年生。男子にとっては多感な時期である。
パソコンで開いたサイトの下に勝手に表示される十八禁漫画のバナー、ゲームの間に挟まる女体まみれのゲーム広告。
どれが一番最初に性への欲求の引き金になったかまでは覚えていない。だが……少なくとも俺は、″そういうこと″に興味を持ち始めてから。唯一の女友達ーーーー兼幼なじみの葵のことを一度、そういう目で見てしまったのだ。
それまでは本当にただの幼なじみだった。誰よりも一緒にいて楽しくて、居心地が良くて。喧嘩したり遊んだり、学校内や放課後まで。葵以上に一緒に行動した奴なんて、男子を含めても一人だっていない。それほどまでの仲良し幼なじみ。
だがある時から……俺はそんな葵のお尻に、目を引かれるようになった。
(何なんだ? この感情……)
いや待て。なんだこの回想最低か?
「でも、これが俺なんだよなぁ」
喫茶こもれびの裏のベンチでぽつんと腰掛けながら。独りごちる。
心臓の鼓動が速い。今にも張り裂けそうなほど躍動していて、どれだけ自分が緊張しているのかを思い知らされた。
「葵……」
ちゃんと来てくれるだろうか。
あの伝え方なら、きっとここで俺が何をしようとしているのか察したはずだ。
だから、来ないという選択肢もある。もし断る気なら……むしろ、その方がお互い楽かもしれない。
「っ……!」
ズキリとした痛みが走る。
一度、フラれているのにな。少し考えただけでこれか。多分本当にフラれたら立ち直れないんだろうな、俺。
それほどまでに、葵の存在は俺の中で大きくなり過ぎてしまっているのだ。
もうただの幼なじみではいられない。入学式のあの日、関係を変えようとして。そして失敗して。それから考えて考え抜いた。
俺は葵のことをどう思っているのか。どう……好きなのか。
「晴翔? はぁ、やっと着いた」
「〜〜っ!? お、おう。よかった。ちゃんと来てくれたんだな」
「当たり前だろ。あんな目で言われたら、な」
少し息切れした様子の葵はそう言って俺の隣に座ると、一息ついて汗を拭う。
ここに来るまでには先生たちが何人も張っていたはずだ。大和たちが揺動してくれているとはいえ、大変だっただろう。
だからきっと走ってここまで来たはずなのに。汗だって掻いているはずなのに。葵からは……いつもとは少し違う、ふわりと甘い匂いがしていた。
石鹸、だろうか。さっき風呂に入ったし。
いや、これは……
「香水、付けてるのか?」
「へっ!? や、やっぱり分かるか?」
「なんかフルーツっぽい匂いする。いい匂いだな、それ」
「う、うん。夜瑠に付けてもらったんだよ。気合い入れてけって言われて」
「……そっか」
ああ、クッソ緊張する。あの時だってかなりのものだったが、今はそれ以上だ。
二回目なら少しくらい慣れて、マシになるかと思っていたのにな。
むしろ一度フラれる経験をしたからだろう。葵を前にしただけで身体中が暑くて、どうにかなってしまいそうだ。
「で? なんだよ、言いたいことって」
「……」
すぅ、はぁ、と。大きく深呼吸して。震える心を落ち着かせて。ありのままの気持ちを、言葉に乗せる。
「葵、お前のことが好きだ。俺と……付き合ってほしい」