現れた男子は三人。視界が悪いこともあり全員誰なのかまでは分からなかったが……ほんのりと見覚えがある。
(もしかして、大和が……?)
私が葵を助けるように。十中八九、大和も晴翔を無事に告白まで導けるよう、策を練っているだろうとは思ったけれど。
「ぷっ……ははっ! 作戦からバカさ加減が滲み出てるでしょ!」
「え? えっ?」
私は班の三人をテントに残し、隠密に作戦を決行した。残す人数を三人より減らしてしまうと誤魔化しが難しくなるし、私一人だけで葵の方に付くのが一番動きやすいと思ったからだ。
でもアイツはその逆。テントに残すべき三人を全員解き放ち、囮に使った。
巡回に来る先生の人数は限られている。二人か、三人か。アイツはそいつら全員を巡回なんかよりよっぽど優先度の高い生徒の捕獲に回らせて、巡回そのものを無くしてしまう気だ。
破天荒で、めちゃくちゃで。でも意外と理には叶っていて。アイツらしい作戦だ。まあ、私なら絶対にやらないけど。
「あれ、多分大和がやったんだよ。周りにアイツが見当たらないから多分……晴翔はもう、目的地に着いた頃かな」
「えぇ……んな無茶苦茶な」
「とりあえず存分に利用させてもらおっか。行こ、葵」
「お、おう?」
それに、もしかしたらこれは買い被りすぎかもしれないけれど。
大和は、私がこうすることを分かっていたんじゃないだろうか。だから私たちが生きやすいようにこの道で駒を解き放った。その揺動によって先生たちを巡回から外すと共に、私たちの活路を開くために。
(やるじゃん。ド変態のくせに)
先生たちが消えたのを確認し、一気に移動を開始する。
一本道を抜け、足早に日中運動をしたグラウンドまで着いて。ようやく、目的地である「こもれび」にあと一歩のところまで来た。
来た、のだが……
「嘘ぉ。まだいんじゃん」
ここをあと少し進めば。そんなところで、先生を一人見つけてしまった。
またさっきのようにいなくなるまで待ってもいいが……都合よくどこかへ行ってくれる保証は無い。大和の放った男子達もこっちへ来ることは無いだろうし、むしろ遠ざかるよう指示してあるはずだ。
「どうする、夜瑠」
「はぁ……決まってんでしょ。そのために私はついてきたんだから」
ここまでだ。あの先生さえ退けてしまえば目的地はすぐそこ。ここで躓いて時間をかけるわけにはいかない。
「改めて念押しするけど。葵、今度は絶対断っちゃダメだかんね。私が……私たちが、ここまでお膳立てしてあげたんだから」
「夜瑠!? ちょ、待っーーーー!」
「好き同士なら、ちゃんと幸せにならなきゃね」
大和は役目を果たした。きっと今、晴翔は今か今かと葵が来るのを待ち侘びている。
私だけが、失敗するわけにはいかないよね。
「オイお前、なんでこんなところにいるんだ!」
「んむぅ……あれ、なんでせんせがいるのぉ? トイレ行きたかったのに……」
最大限自然な仕草で、寝ぼけている生徒を演じきってみせる。
本当は格好つけて「私が止めてるから葵は先に行って!」みたいなやつやれたらよかったんだけどなぁ。私も怒られたくはないし。
「なんだ、寝ぼけてるのか? ほら戻るぞ。お前何組だ?」
「三組ぃ〜。ありがとせんせぇ」
脇役はこのまま、静かにフェードアウトさせてもらおうかな。