「……よし。じゃあそろそろ作戦開始といこうかな」
「お、おぅ」
お風呂からあがり、しばらく。就寝時間の一度目の見回りが終わってすぐに、私たちは最後の作戦会議に取り掛かる。
作戦は至って単純。
1、テントに見張り役兼ごまかし役として三人を置き、私と葵のみで脱出
2、道中は二人で常に周りを警戒しつつ、最悪の場合は私が囮役となって目的地までフォロー
これだけだ。ただ、単純明快な作戦内容ではあるもののその遂行難易度はSSレベル。個々の判断力と応用力が必要になってくる。
「頑張ってね、白坂さん! ここは私たちに任せて!」
「お土産話期待してるよ〜」
「絶対に先生には邪魔させないから! 中月さんもしっかりね!」
その点、この三人にも頑張ってもらわなければ。ここに葵と私がいないことがバレてしまえば作戦は簡単に破綻してしまうだろう。
だからあのお風呂時間で、葵には悪いことをしたと思いつつも晴翔とのことを喋らせた。どこが好きなのかとか、実際告白されてどう返事をする気なのかとか。
女子はこういう話題には常に飢えている。万が一にも裏切らせず完全に味方にするために葵への興味を惹かせ、同時に告白のお土産話を担保として協力を促した。おそらくはこれで大丈夫なはずだ。
(けど正直これ、一番大変なのは私なんだよなぁ……)
あとは私の頑張り次第。道中誰にも出くわさず何も無ければそれでいい。しかし言ってしまえばこれは遭遇した瞬間に死が確定する相手とのかくれんぼだ。クソゲー極まりないけれどやるしかない。
「あ、ありがとみんな。……行ってくる」
「まあ頑張るよ。せっかくの親友の恋路を、つまらない学校の規則なんかで邪魔されちゃたまらないからね」
二人でテントを出て、暗い道を進む。
一応しっかりと人が歩けるように道は作られているが、この時間帯はもう周りにほとんど灯りが無い。最低限ついているのは、見回りの先生用にだろうか。
本当はスマホがあればよかったんだけどな。ま、それがあったらそもそもこんな面倒なことにはなってないわけで。ないものねだりをしていても仕方がない。
「なあ夜瑠。その……本当にありがとな。お風呂でのあれも、全部みんなに協力してもらうためにやったんだろ?」
「え? おっぱい揉んだこと?」
「ちげぇっての! 私に晴翔との話をさせたことだよ!」
なんだ、気づいてたのか。てっきり葵のことだからそんなこと検討もついていないかと。
少なくとも、この子ならそういう手段は浮かばないはずだ。男勝りに見えるけど誰よりも乙女で、ガサツに見えるけど誰よりも一途なこの子には。
「ほんと、夜瑠はすげえよ。自慢の親友だ」
「どしたの〜? 急に褒めるじゃん。あ、ちょっとストップ。あそこ先生いる」
先生の影に気をつけながら、ゆっくり静かに二人で道を進む。
晴翔との待ち合わせ場所まではまだ半分も進んでいない。いつどこから先生が現れるか分からないし、細心の注意を払わないと。
「ほんと、感謝してる。……夜瑠が親友で、よかった」
「っ……そういうのは、ちゃんと晴翔と付き合ってからにしてよね。いい? 次はフラないでよ? ま、もう大丈夫だと思うけどさ」
「ああ、任せろ! 絶対晴翔とこ、ここ、恋人に……」
「えぇ。急に不安にさせるじゃん」
さて、ここからはどうしようかな。
あそこに立ってる先生が厄介だ。この一本道を通らず迂回するとなるとかなりの遠回りだし、道無き道を行くことになる。流石に草むらを掻き分けるのは嫌だなぁ……。
なら不安だけど、一度きりのとっておきである私の囮をここで使ってしまうか? この先の長い道のりを葵一人で……
選択を迫られ、立ち止まる中。私たちを救う救世主が現れる。
「オイ! そこで何してるんだ!!」
「ひえっ!? よ、よりによって松本!? やっべぇ!!」
((誰……?))
多分。多分だけど。
同じクラスの男子だ。