『今日の夜、十時にパフェ食べた店の裏に来てくれ。伝えたいことがある』
「ぽえぇ……」
「ふっふっふ。とぉうっ! 秘技、背面巨乳掴み!!」
むにょんっ。服を脱ぎ下着姿でぼーっとしている親友の背後から手を伸ばし、たわわを鷲掴みにする。
手のひらに収まりきらないほどの巨峰。確かな存在感に加えて、揉むとハリがあって弾力でしっかりと押し返してくる。
そりゃあ、世の男どもは大きいおっぱいに夢を見るわけだ。こんなのいくらでも触っていられるし。大和のように狂わされてしまう人だって出てしまうわな。
「あ、あれ? お〜い、葵さん? あなたのおっぺぇ揉みしだかれてますよ〜?」
「晴翔……ぽわぁ……」
「ダメだ。意識がどっか行っちゃってるわこれ」
もう分かりやすすぎるくらいに葵の様子がおかしい。
こうなったのは、男女でグループが分かれた後から。そう、即ち晴翔と別れた時からだ。
ご飯を食べてる時や後片付けをしている時は普通だったし、きっと何かがあったのは別れ際。というか……うん。内容は容易に想像できる。
ーーーーと、いったんそれは置いておいて。
これは絶好のチャンスだ。
「ふふ、ふふふふふふ。今の葵なら隙だらけ。つまり、女の子同士でも許してもらえなかった絶対領域への侵入が可能ということ! では早速、その綺麗なさくらんぼを……いだっ!? いだ、いだだだだだっ!?」
「……はっ! なんか今、一瞬意識が飛んでた気がする。気のせいか?」
「気のせい! 気のせいだからっ! ヘッドロックはやめてぇ!! か弱い女子にそんなのかけたらぽっくり逝っちゃう!!!」
くそぅ、今ならいけると思ったのに。
生物として備わっている防衛本能からなのか。葵はそのたわわな果実の先端に私の指が触れそうになったその瞬間。即座に見えない動きで反応し、華麗なヘッドロックで私を拘束した。
ほぼ無意識下で行われた攻撃だったからだろう。加減の匙加減が明らかにいつもより緩くなってしまっており、本当に一瞬意識が飛びかけた。お、恐ろしい子……。
「あ、ごめん。夜瑠が触ろうとしてきたらもう反射的に動いちまう身体になってて」
(いや、もう結構しっかり揉ませていただきましたけどね? 勿論言わないけど。行ったら次こそマジで身体の骨何本かやられそうだし……)
いつもの葵なら、せいぜい不意打ちでもおっぱいに軽く触れるくらいが限界。むしろ拘束された後に間食を楽しむ時がほとんどだというのに。やっぱりさっきは明らかに大チャンスだった。くそぅ、先端になんて行かず、お尻にしとくんだった。
なんて、どこかのド変態男が口ずさみそうな台詞を頭に思い浮かべながら。バスタオルを巻き始める親友と、本意に入る。
「で? 晴翔と何があったん」
「へぇっ!? は、晴翔!? な、ななななんにもねぇけど!? べっつにぃ!? 後で抜け出してきてくれとか、伝えたいことがあるからって真剣な眼差しで言われてキュンとしたりとかしてねぇけどぉ!?!?」
「わぁ〜。思ったより全部言ってくれるんだにぃ。ま、予想通りだったけど」
晴翔のやつ、ようやくか。
本当……ようやくかぁ。
◇◇◇◇
この二人の焦ったい関係は、何も今に始まった話じゃない。
私は中学から仲良くなったからその前のことはあまり知らないけれど、少なくとも中学時点でどうして付き合わないのだろうとは感じていた。
しかし、まさかここまでズルズル引きずることになろうとは。いやまあ、あのド変態が悪いんだけども。
(けど、ようやくその焦ったい関係も今日で終わりそうだね。話を聞く感じ″確定″でしょ)
早かったような短かったような。あの最低な告白からそれなりに時間が経って、ようやく仕切り直しの覚悟が決まったといったところか。
にしても晴翔のやつめ、校外学習の夜に抜け出してきてくれなんて中々分かっておる。葵はかなりベタベタな乙女思考だもんね。成功率を少しでも上げるならそういうシチュエーションは大切だ。そういう意味で、この夜にというのはまさに百点満点のタイミングだろう。
「よかったじゃん葵。努力が実ったんじゃない?」
「や、やっぱりそうなのか!? アイツ、私のこと……」
やっぱりも何も。誰がどう見てもそうでしかないだろうに。
はぁ、ほんとこんなに可愛いところまみれの女の子を前にして、なんで一番最初に出てくる好きなところがお尻だったのかな。あのド変態は。
あの告白は、二人の関係を大きく狂わせた。なんの変哲もない普通の告白をしていれば今頃、二人はとっくにクラス一のラブラブカップルになれていたというのに。
「えー、なになに? 白坂さんの恋愛話聞きたーい!」
「ふえっ!? あ、集まってくんなよ! 別に何もねぇって!!」
「ん〜? 何言ってんのさ葵。これから晴翔にこ•く•は•く♡ されに行くんでしょ?」
「「「きゃーっ!!」」」
「夜瑠ぅ!? おま、お前ぇっ!!」
まあでも、どうやら今回はようやく上手くいきそうだし? 私としては応援しないわけにはいかないよね。
応援ーーーー正確には支援、か。
せっかくの告白だ。校外学習の夜、呼び出された場所で二人きり。そんなロマンチックなムードを、万が一にも誰かに邪魔されるわけにはいかない。
「ね、葵。告白されに行くのはいいけど、それは誰のサポートも無しでできることなの?」
「へ? ど、どういうことだよ」
やっぱり。葵はもう浮かれすぎてて状況がちゃんと理解できていない。
「葵はこれから学校の決まりを無視してテントから抜け出すんだよ? 当然、見つかったらタダじゃ済まない。そもそもそういう生徒が現れることは予想済みだろうし、先生たちは色んなところで見張をしてるだろうね」
「う゛っ!? た、確かに……」
だから、これは私の仕事だ。私と……大和の。
きっと向こうは向こうでアイツが何とかしてあげているはず。ああ見えて結構冷静な判断ができる奴だ。晴翔のことは任せていいだろう。
私はこっちに専念する。葵を無事に晴翔に会えるまでサポートする係として。令和のギャル軍師の力、とくと見せつけてあげましょうじゃないの。
「当然私もサポートする。けどそれだけじゃ足りない。だからーーーー」
これは大規模作戦だ。親友が先生たちの目を掻い潜り戦場に降り立つまで。私たちは全力でサポートする。
そう。私だけじゃない。私たち、みんなで。
「従順な駒を用意しなきゃ……ね?」
こういうのは、私の得意分野だ。