葵と別れて、およそ一時間が経過した。
俺と大和はその後、先生にスマホを預けてからテントへと向かい、荷物を置いて。相部屋(テントだとこの場合は相テントと呼ぶべきなのだろうか)になった三人としばらく談笑をしたのち、入浴時間を迎えた。
「で? やっっっっっと告白すんのか?」
「いや『つ』が多いな。そんなにやっとって感じか?」
「はぁ……お前なぁ、第三者目線からお前らがどう見えてるかって考えたことあるか?」
「う゛っ」
「自覚あるなら変に言い返すんじゃねぇ」
脱衣所にて服を脱ぎながらそう呟きため息を吐く大和に対し、俺はそれ以上何も言い返すことはできなかった。
周りから見た俺と葵……か。
少なくとも、もうただの仲の良い幼なじみで終わらせられるほど軽く見られていないのは分かっている。
なにせ、一緒に登校したり二人っきりで教室から抜け出して手作り弁当を食べたり……と。思い返せば常日頃からラブコメよろしくいろんな事をしてきた。俺が第三者側だったとしても、まあまずあの二人は付き合っているのだろうと思ったはずだ。
しかし、残念ながら事実は違う。
俺たちは付き合うどころか、むしろ一度俺が告白してフラれた仲だ。その事を知っているのは大和と中月だけだが。
「おいおい、お前ら何コソコソ面白そうな話してんだよ〜。俺たちも混ぜろよい」
「うるせー。入ってくんな入ってくんな。モブABCども」
「「「誰がだ!?」」」
今夜十時。俺は葵に告白する。
場所は日中二人で行った喫茶店『こもれび』の裏にあるベンチの前。二人でパフェを食べた時、たまたま見つけた所だった。
しかし当然、あそこに行くためにはテントから脱出しなければならない。班全体の入浴が九時前に終わり、その後からはテント同士の移動が禁止されている中で……だ。
そのためにはーーーー
「なあ、大和」
「言うな。言わなくても分かってる。協力してやるよ」
「っ……!」
そのためには、班員である四人の協力が不可欠だ。
九時を過ぎて外出禁止になれば、間違いなくその後は先生たちの見張りがつく事だろう。見回りもあると聞く。それらを全て掻い潜り葵に告白するのは、とてもじゃないが一人じゃ実現不可能だ。
「オイお前ら、集合。作戦会議すっぞ」
「ああん!? おま、あの扱いからのそれか!?」
「う〜るせぇ〜なぁ〜。モブが口ごたえすんなよぉ〜。ほら、うんめぇ棒やるから」
「お、俺たち十円で釣られる男だと思われてるのか……」
「十円じゃねぇ。今は十一円だ」
「あんま変わらねえなぁ!?」
そういう意味で、この四人はなんとも心強い。
大和はともかく、まさか他の三人がここまで積極的に協力してくれるとは思いもしなかった。むしろ告白するなんて言ったら邪魔されるものかと……。
「いやぁ、まあでもぶっちゃけ、俺ら目線からもさっさと付き合えって感じだったからな。他の俺らにでも可能性がありそうな子ならともかく、白坂さんとなると……な」
「うん。高嶺の花すぎてどうせ手出せないしな」
「それ以前にもう中之島とラブラブすぎて付け入る隙ないしな」
「……」
ひとまずこっちは何とかなりそうだが……向こうは大丈夫だろうか。
俺同様、葵にも抜け出してきてもらわなければならないわけだが……
(いや、大丈夫か。向こうにはアイツがいるし)
作戦とかそういうのは、多分葵には考えられないだろう。アイツは頭脳派というより肉体派だから。誰も協力者がいない場合は全速力で集合場所までダッシュするとか、そういう肉体頼りの脳筋な作戦を平気で実行しそうだ。
しかし、向こうには俺の知り合いの中で最も優れた指揮官がいる。きっと、心配はいらないだろう。