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第43話 また後で

「ではみなさん、これから就寝用のテントへとご案内しますので、班ごとの整列をお願いしまーす!」


 晩御飯のカレーを食べ終わると、いよいよ就寝の時間が近づいていた。


 この校外学習では野外に設置されているテントでの寝泊まりをするそうなのだが、当然その際の班は男女別。よって俺は大和とは同じ班であるものの、葵や中月とは一晩完全に離れ離れである。


 そりゃ当然、一緒に泊まれたら最高だったんだがな。学校なの校外学習でそれはいくらなんでも実現不可能だろう。お風呂の時間だってあるわけだし。


「おい晴翔、さっさと行くぞー。一旦テントに行ったらその後は風呂だってよ」


「風呂……って、そういえばどこで入るんだ? ホテルじゃなくてテントだし。まさかドラム缶に火を焚いて入るあれじゃないよな?」


「馬鹿、んなわけねぇだろ。ちょっと歩いたところに普通に営業してる温泉があるんだとよ。そこに班ごとで時間を分けて入るらしい」


「あー、なるほどな」


 なるほど、その手があったか。確かにそんなものがあるならお風呂問題は簡単に解決だな。


 と、そんなことを考えていると。くいくいっ、とシャツの裾を引っ張られた。相手は隣にいた葵である。


「? どした?」


「え? あ、いや……別に。大した用、ってわけじゃないんだけどよ」


 どうしたのだろう、こんなにもじもじとして。お手洗い……は、別に勝手に行けばいいだけだもんな。事実、中月は今それで簡単に葵を置いていってるし。


(もしかして……別れるのが寂しい、のか?)


 お手洗いの次の候補でこれというのは、いささか自意識過剰だろうか。


 だが、俺は知っている。葵は結構寂しがりやで甘えんぼだ。ここで別れた後次会えるのは明日の朝だと聞いていてもたってもいられなくなった、なんてのは案外あり得るかもしれない。


「す、スマホ……」


「スマホ?」


「……ちゃんと、見れるようにしとけよ。電話で声、聞きたいから」


「……」


 ほぉら。寂しがりやだ。


 ま、俺としては幼なじみ冥利に尽きるというか。そうやって言ってくれるのは嬉しい以外の何者でもないんだけども。


 ただーーーー


「この後スマホ回収されるぞ? 次に使えるのは明日の朝になってからだと」


「へっ!? う、嘘! なんでだ!?」


「夜更かし防止だろうなぁ。あと、せっかくクラスメイトと仲良くなるための会だからスマホに齧りつくのはやめろってことだろ」


「う゛っ。そ、そっか……しゅん」


 ああ、途端に捨てられた犬みたいに。


 まあでも、これに関しては反対意見も相当あがってたみたいだけどな。仲良くなってすぐに連絡交換したいとか、一緒に写真撮ったり、他の班の人とビデオ通話繋いで遊んだりしたいとか。ただゲームがしたいからとかではなく意外と正当性のある意見もあったようだが、学校側は結局強引にスマホ禁止を押し通した。


 こればっかりは学校の生徒という立場上、俺たちはもうどうしようもない。スマホを二台持ってきて……みたいな荒技をする奴も現れるかもしれないが、少なくとも俺にそれは無理だ。普通に一台しか持ってないからな。


「そんな悲しそうな顔すんなって。寂しいのは分かるけどさ」


「さ、寂しく、なんて……」


 本当はスマホがあったほうが、俺も色々と都合が良かったんだけどな。


 元々″禁止されていること″をこれからするのだ。スマホ禁止のリスクくらい乗り越えて見せよう。


「なあ、葵」


 大和は気を利かせてこの場から離れている。他の生徒も、次々に整列を始め、一番早い班はもう既に先生にスマホを預けていた。


 俺たちも、すぐに連絡手段が無くなることだろう。


 だから、今。こういう手段を取るしかない。



「今日の夜、十時にーーーー」

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