「「いただきま〜すっ!」」
「「い、いただきます……」」
プラスチック製のお皿の上に乗せられたのは、お米と野菜がゴロゴロしたカレー。
火の番をしていた時から思っていたことだが、食品サンプルかと思うくらい完璧な出来だ。うちのギャルは末恐ろしいな。
「うんまっ! なんだこれマジで美味い!! 流石だな、夜瑠はっ!!」
「むふふん。存分に褒め称えてくれていいんだよ? ま、そういう葵も昔と比べて随分と包丁使いが様になってきてたから。そのちょーしなら私に追いつく日も近いかもしれないけど」
「ふももも!? ふもふっ! ふほほふほっ!!」
「はいはい、嬉しいのは分かったから一旦飲み込もうねぇ」
こういう、みんなで食べるものは特別に美味しい……みたいな表現って結構使われがちだが、このカレーはもはやそういう″気持ちの問題″で済まされる域をとうに超えていた。
大和も見た目だけが完璧で味は不味いことに最後の希望を残していたようだが、無駄だったようだ。なんとも複雑そうな面持ちをしている。
「にしても中月がここまで料理上手なのは意外だったな。普段からやってるのか?」
「まね〜っ。うち共働きなうえに弟いるからさ。たまに私がご飯作ってるの。ま、場数が違うってわけよ」
「あぁ、どおりで」
確かにあの手際は普段から料理をしている人のそれだった。まあまさか本当にしていたとは思いもしなかったけれど。
「水門っていうんだけどね? 二つ下の中学二年生。いつも美味しそうに食べてくれて作り甲斐があるんだ〜。完全敗北を認められずに変な顔してるどこかの誰かさんとは大違いの可愛い子なの」
「っ……」
というか、中月って弟がいたのか。
さっきの感じ家では弟に優しいブラコンギャル……うぅん、想像できない。あの自由奔放さは確実に一人っ子のそれだと思っていたんがなぁ。
「ふふっ、どう? 大和さん、美味しい? せっかく作ったんだから感想聞きたいにゃあ」
「か、感想……だと?」
「美味しいの〜? それとも美味しくないの〜? ま、その食べっぷり見れば聞かなくても分かるけどね〜♪」
お、大和の奴煽られてら。
この二人の絡み、なんだかんだ見ていて飽きないんだよな。まあひとまず俺は会話からフェードアウトさせてもらうとしよう。二人のお邪魔をしてしまってもあれだし。
「おかわりっ! へへへ、まだ余ってるのあったよな〜♪」
「俺も取りに行こうかな。あんまりモタモタしてると葵に全部食べ切られそうだし」
「わ、私はそこまで食いしんぼじゃない!!」
日が落ち始め、空が茜色から紺色へと変わっていく。
この夜ごはんを終えたら、俺たちはそれぞれ男女別にテントでしばらく過ごした後、就寝する手筈となっている。
(上手く、いくといいんだけどな……)
俺が勝負をかけるのは、空が完全に暗くなってから。みんなと別れた後に葵を呼び出し、想いを伝える。伝える言葉はもう……考えてある。
「ったく……ほら、お皿寄越せ! よそってやるから!!」
「ん。ありがとな」
不安半分期待半分、といったところか。
ーーーー今夜、俺は葵にもう一度、告白をする。