「……で? なに今の」
「俺に聞かれても知るかよ。あー、クッソ。まだちょっと痛え……」
晴翔と葵が店内を騒然とさせるほどのイチャイチャっぷりを見せつけ、客全員を砂糖まみれにするだけして出て行ったその後。
私たち二人も、同じように砂糖漬けにされながら、カフェオレを飲んでいた。
「ねえあれで付き合ってないとか嘘でしょ? 付き合うどころかもう結婚してても違和感ないよね……」
ドッヂボールが終わり、瀕死状態になった大和の介護をするという名目でサボる口実を手に入れた私は、そのままサッカーを不参加で終えて。そろそろ次のスポーツが始まりそうというタイミングで逃げだしてきた。ついでに大和も引っ張って。
するとどうだ。葵と晴翔がどこかへ行ったのは見ていたけれど、まさか私がサボりスポットとして調べていたお店にあの二人も向かっていたとは。おかげでわざわざ一番端の席に座り、エンカウントしてしまわないよう隠れなければいけなくなってしまった。
まあそれも、二人が退店したことによりようやく気にする必要が無くなったわけだが。
「まあ正直外野目線だともう付き合ってるも同義だけどな。どっからどう見ても好き同士だろ、あれ」
「……彼女いない大和にもそういうの分かるんだ?」
「馬鹿にしてんのかテメェ」
今のは半分冗談としても。実際あの二人が好き同士なのは既定路線だ。
なにせ、簡単な話私は葵からその気持ちを聞かされている。加えて晴翔はかなり気持ち悪かったけど既に一応告白を済ませている立場なわけで。あれでもし好き同士じゃないっていうならもう私が一生恋心というやつを理解できる日は来ないだろう。それくらいの確信がある。
「大体お前も彼氏いないだろうが。立場としては同じだろ」
「私はいないんじゃなくて作ってないの〜。作りたくても作れない大和さんとは違うのだよ」
「どうだかな。じゃあ聞くが、お前告白とかされた事あんのかよ」
「……」
無い、とは言いたくなかった。
いやまあ無いけども。見栄を張ったからには貫きたい。ここでこの事実を認めることは私のプライドが許しはしないのだ。
「ある、けど? 何回も。まあ告白してきた男子全員パッとしなかったから全部断ったけどね〜!」
「……あっ、そ」
あ、ヤバい。流石に無理あった? すっごい疑われてる気がする。
大和は意外と勘が鋭い。私がついた嘘が咄嗟に思いついたちぐはぐなものだったこともあって、嘘を確信まではしていなくとも怪しいとは感じているはず。
まずい……これ以上話すと絶対ボロが出る。話題をすり替えないと。
「そ、そうだ! 私たちも何か食べようよ! せっかくここまで来たんだし!」
「何か……何か、ねぇ。てかお前いつまでここでサボる気だ? 晴翔たち戻ったなら俺たちもそろそろーーーー」
「すぐ戻ったらここに私たちがいたこと勘付かれるでしょ!? 大和馬鹿なの!? 馬鹿でド変態なの!?」
「ド変態は余計だろが!!」
どうやら大和の大和の痛みはかなり引いてきたらしく、晴翔たちが戻った後はきっとすぐにクラス遊びへと戻ろうと考えているのだろう。
そうはさせるか。ここで大和を一人帰してしまっては私が一人でサボりに行っていたことになる。大和の看病という大義名分を失った後に残るのは、共犯のいない孤独なサボりか馬鹿みたいに運動させられるクラス遊びへの参加という、どちらに転んでも苦痛な絶望の二択だ。
それだけは……絶対に阻止しなければならない。