「はうあっ!?」
パフェも。スプーンも。全部二人ではんぶんこして、まるでカップルがするかのような食べ方をする。
そんな幸せな夢を、葵が相手を俺に見据えて抱いてくれているのなら。応えてやりたい。叶えさせてあげたい。
そう、決してさっきの仕返しをしてやろうというわけではないのだ。俺が恥ずかしがっているところを散々堪能してやがった葵の意趣返しなんて考えちゃあいない。まあ結果的に良い表情は見られるかもしれないけども? それはあくまで副産物であってだな。
「わ、私はいい! スプーン返せ!!」
「やなこった。なんならパフェも渡さんッ!」
「なっ!?」
どれだけスプーンがあろうとも、肝心のパフェが無ければ意味はない。それに瞬時に気づき動いた俺の勝ちだ。
「このままじゃパフェ、俺の独り占めになっちゃうな? あ〜あ、たったの三口しか食べられないなんて可哀想に。ん〜、んまいっ!!」
「あっ! ああっ!!」
さっさと観念すればいいものを。
「じゃあセカンドチャンスだ。はい、果肉入りで」
顔に書いてある。
ソワソワと恥ずかしさから落ち着きのない様子を見せながらも、もう心のうちは決まっているのだ。
「……あむ」
ようやく素直になった葵は左の横髪をそっと耳にかけて。最後に三回ほどあたりを見回してからーーーーぱくり。俺がついさっき咥えたばかりのスプーンに、艶やかな唇を触れさせたのだった。
「美味しいか?」
「…………うん」
可愛い。今日何度目だろうか、この感想を胸の中で呟いたのは。
もにゅもにゅと柔らかなそれを咀嚼して、飲みこむ。もう一度スプーンにクリームを乗せて差し出すと、恥ずかしながらもまた咥えてくれた。
これが……恋人になった時に見れる葵の姿か。
(最高じゃねえか……)
普段の男勝りな姿も、しかしながら時折見せる女の子な顔も。一緒にいると心地よくて、愛おしい。
「な、なんかこれ、餌付けみたいになってないか?」
「なってないなってない。ほら、もう一口」
「つ、次は私が食べさせる!」
「そうか? ならこれ食べたら交代な」
周りからの視線が突き刺さる。
やっぱり今の俺たちは恋人同士に見えているのだろうか。まあうん……当然だよな。こんなことしてるわけだし。
「やっぱり、落ち着かないな。周りから見られるとさ」
「……だな」
「でもそれ以上に……嬉しい。お前とこんなことができて、最高の気分だよ」
「な、ならよかった」
「うんっ。ありがと、晴翔」
ああ、クソ。可愛いな。何度見ても可愛い。
(もう俺、どうしようもないくらいコイツのこと……)
ダメだ。絶対にこの想いは口に出すな。
心の内を吐き出しそうになり、必死に押さえ込む。
ここじゃない。コイツに想いを伝える場所はもう、決めている。
例えここで伝えるのとあとで伝えるの、どちらでも最終的な結果は同じだったとしても。
俺には、最低な告白をした罪滅ぼしをする義務がある。もし俺と葵が付き合うことになった時、告白の思い出が綺麗なものになるように。
だからーーーー
「もう少しだけ、待っててくれ」
「……? 何をだ?」
「いや……こっちの話だ」