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第26話 恋愛映画

「むむむ……こっちだ!」


「ふ、かかったな」


「ぐぬっ。ま、まだ負けてねえし! こっからだこっから!」


 一対一のババ抜き。それはルール上、すぐに最終局面を迎えてしまう。


 何せ自分が役を揃えるためのカードは確定で相手が持っているのだ。何を引いても手札は減っていくし、簡単にジョーカーと何かしらのカード二枚のみが残る構図が完成する。ちなみに今は俺がハートの三のみを持っており、それ以外のマークの何かしらの三とジョーカーを持っている状況だ。


 実力が拮抗する相手ならここからが一番面白いんだろうな、なんて思いつつ。左右の手に一枚ずつ握られたカードのうち左手にあるものに触れる。


「っ……ふふっ」


 右手にあるものに触れる。


「んぐっ……」


 なんともまあ分かりやすいのか。


 ジョーカーを触れば顔に力が入って緊迫した表情を見せ、逆を触れば笑みを漏らす。こんなの小学生でもどちらを引けばいいか一目瞭然だろう。


「お前なぁ。分かりやす過ぎるぞ、っと」


「んなぁ!? クッソ、また負けた!!」


「お前相手なら誰でも勝てるって。すぐ顔に出るんだもんなぁ」


 まあそういう素直なところも葵という人格を形作る良い部分だとは思うが。ことばば抜きにおいては悪いが全く相手にならない。というか多分、こういう心理戦が絡むトランプ勝負だと何をやっても負けることはないと思う。ウニョならまだ引き次第でコイツに勝ち目があるかもしれないけどな。


「もうトランプはやめだ! ウニョやるぞウニョ!!」


「はいはい」


 とまあ、その後も色々ありまして────


「凄いな。ここまで弱いって逆に才能だぞ」


「……」


 手加減してやろうかとも思ったが、いかんせんコイツが弱すぎて手の抜き方が難しい。露骨に手を抜いたのがバレれば機嫌を損ねるだろし、なんて考えていたらあっという間にトランプと合わせて十連勝を決めてしまった。


「お前、イカサマしてるんじゃないだろうな?」


「しなくても勝てるって。というかむしろ葵に少しくらいイカサマ使ってほしいくらいなんだけども」


「なぁっ!? コイツ、調子乗りやがって……っ!」


 怒った様子で歯軋りしながら、葵はトランプとウニョを片付けていく。


 もう諦めたのだろうかなんて思っていると、やがてスマホを取り出して。言った。


「お前としたいこと、カードゲームだけじゃねえから。勝ちまくれれば最後までやろうかと思ってたけど予定変更だ。一緒に映画見るぞ!」


「映画? えらく急な話だな」


「急じゃねぇ! ほら、前に私の見たかったやつがサブスクの対象に入ったって話、したろ?」


「ああ……なんかそんなことも言ってたような」


 確か恋愛映画だったっけな。去年の夏あたりに放映されて話題になったやつだ。俺はそういうのからっきしだから分かんないけど、葵はやっと見れるって喜んでたっけ。


「って、その話してたのって確かまあまあ前じゃなかったか? まだ見てなかったのかよ」


「ああ? あったりまえだろ。お前と見たいやつなんだから」


「へ?」


「……? だから、お前と見たいんだって」




 不意打ちされて、変な声を上げてしまった。

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