「押し倒したァァ!?」
「ばっか、声がでけえよ!! というかあれは不可抗力でだな……」
夜。今日葵が家に来ることを知っていた大和からメッセージが送られてきた。
アイツなりの心配か、はたまたただの興味本位か。どうだったのかと聞かれて、俺はあった出来事をそのまま話すことにしたのである。
葵にお尻鑑賞の画面を見られたこと、私以外のお尻は見るなと言われたこと。その後ゲームをしたこと。そして……押し倒してしまったこと。
するとあっという間に既読がついたかと思えば電話がかかってきて今に至る。耳元で大声を出されたせいでキーンと耳鳴りが響いている。
「お前さぁ、告白取り消したのついこの間の話だよな? 展開が早えって」
「そ、そんなこと言われても。俺だってまさかあんなことになるとは思ってなかったんだよ」
「犯罪者が言いそうな台詞だな」
「いきなり辛辣!!」
ったく、コイツ最近やたらと当たりが強いな。
まあそれは一旦置いておいて。俺も今日は色々と驚きの連続だった。
何より一番驚いたのは、葵の俺に対する態度。やけに緊張していたり、顔を真っ赤にしてふにゃふにゃになったり。お尻は喜びの形をしていたから嫌がられていることは無かったはず。しかも押し倒した後「そういうのは付き合ってからにしろ」って。そもそも告白のやり直しを承諾してくれた時点で、やっぱり葵は俺のことを……?
「ちょっと待て。ナチュラルに今お尻が喜びの形を、とか出てこなかったか? どういうことだってばよ」
「心読むなよ怖えよ。どういうことって、別に普通のことだろ。お尻で感情を読み取るくらい」
「ああ……うん。なんか安心したわ。最近お前ラブコメの主人公してたから忘れてたけどちゃんとド変態なんだった」
失礼な。こんなのお尻好きなら常識だぞ。
お尻には感情が現れる。喜んでいる時は明るいお尻をしているし、悲しんでいる時には暗いお尻。色味の問題ではなく、なんというかこう……言語化するのは難しいが、角度やハリを見れば俺には一目瞭然だ。
「まあ、要するに惚気だろ。そのまま襲って既成事実使っちまえばよかったのに」
「おま……他人事だからってなぁ」
「変に気にすることないって言ってんの。恋愛経験ないバカのクズなド変態でも、告白のやり直しを承諾してもらえたってのが何を意味するのか。分かってないわけじゃないんだろ?」
「三言くらい余計だったぞ今の」
けど……まあ、そうだな。大和の言いたいことは伝わってる。
要はさっさとしろと。俺は一度葵のお尻を好きになり告白した。そしてそれを取り消し、次は葵の全てを好きになってからもう一度告白すると宣言して見せた。
時間がかかるものだと思っていたのにな。俺がチョロすぎるのか。ここ最近葵のことが可愛く見えて仕方がない。
多分もう……好きになってる。いや、もしかしたらとうの昔から……。
幼なじみという関係性は本当に厄介だ。ずっと一緒にいたせいでもはやどれが決定打だったのかすら思い出せないのだから。
「んで晴翔よ。そんなお前に朗報だ」
「お?」
「来月の頭、ちょうどいいイベントがあってだな」
「イベント……?」
「ああ。その名も────」
「っ!!」
「うってつけだろ?」
「……だな」
そうか、そういえばそんな話があったっけ。
高校生活初めてのイベント。それだけでも多少なりともバフがかかりそうなものだが、そのうえ行き先は……。
まさにうってつけのタイミング、か。