まずい。非常にまずいことになった。
まさかよりにもよって葵にお尻鑑賞の画面を見られるなんて。
これは言わば浮気現場を見られて修羅場と化した現場に等しい。だってそうだろう? 俺は葵のお尻に惚れたと言っておきながら他のお尻にかまけ、しかもその現場を本人に見られてしまったのだから。
「分かってたけど、お前はほんと度を超えた変態だな。やっぱりお尻がついてりゃ誰でもいいのか?」
「ち、違う! 誤解だ!! ほら、これはあれだよ。現実に彼女はいるけどついついエッチなアニメキャラに魅入ってしまう、みたいな! けどそこに本気で恋はしないだろ? そういうことだよ!!」
「ふぅん……」
痛い。葵のジト目が俺を突き刺してくる。
嫉妬、しているのだろうか。それともただ単に自分のお尻を好きだと言っておいて他のお尻にかまける俺に怒りが湧いたのか。
「……見るなら私のだけにしろよ」
なんなんだ、本当に。なんでそんな顔をするんだ。
最近葵の考えていることがずっと分からない。告白を取り下げてから、毎日毎日コイツが何を考えてるのか必死に悩む毎日だ。
今だって言い返されると思っていた。我ながらどういう理屈なのかよく分からない言い訳だったし、もっともだと言わざるを得ない反論をされるものだとばかり。
それなのに帰って来たのは嫉妬するかのようなジト目と小さな言葉。まるで葵の性格そのものが変わってきているかのような……。
「今日の体育の時みたいに、私のを見て暴走する分にはいい。けど、な。他の奴のお尻で興奮するお前をあんまり見たくねえよ……」
「っ……ご、ごめん」
「言うこと、それだけか?」
「……あ、葵のお尻以外、できるだけ見ないようにする。す、すぐに他のを全部見ないってのはできないかもしれないけど。やっぱり一番好きなのは葵のお尻だ。それは本当だから!」
「ふふっ。できるだけ、なんだな。そこは嘘でも「もう絶対見ない!」って言っときゃいいのに」
「い、いやそれはさ。嘘はつきたくないし……」
「いいよ、お前はそれで。その方が晴翔らしいしな」
んーっ、と伸びをしながら。扉の前に立ち塞がるのをやめた葵は俺のベッドの上に腰掛け、倒れる。
俺がいつも使っている枕を手に取ると、それをぬいぐるみでも抱くかのようにして。少し満足げに笑って見せた。
「なあ晴翔。お前みたいなド変態を許してくれる女の子なんて、そうそういるもんじゃないんだからな」
「へっ……?」
「私を大切にしろよって話! いくら幼なじみとはいえ、普通の子ならドン引きして関係を切られててもおかしくねえんだ。分かったら敬え! もてなせ! ここは客人にお茶の一つも出ねえのか!?」
「は、はいっ!? お茶……お茶でいいんだな!? 持ってくるから!!」
寝転がりながらもいきなり声を荒げるその様子に思わずビビって。俺はすぐに部屋の扉を開けると階段を駆け降りていく。
「ったく……何言ってんだ私。我ながら訳わかんねえよ……」
「な、なんだったんだ? とりあえず許してもらえた……のか?」
なんとなく、だけど。葵から怒っているような雰囲気は一切感じ取れなかった。
初めは嫉妬と怒りを感じた気がしたが、気のせいだった。葵から嫉妬の感情こそ現れたものの、そこには怒りなんて微塵も無い。むしろ俺が謝った後は満足そうにすらしてて。
「やっぱ分かんないな、女心って」
俺に恋愛経験の一つでもあれば分かったのだろうか、なんて悔やみつつも。頭を悩ませながら、冷蔵庫のある台所と向かうのだった。