「お邪魔しま〜す!」
ガチャッ。俺が家の鍵を開けると、一番乗りで玄関先に乗り込んだ葵はそのまま靴を脱ぐ。
「今日おばさんはいないのか?」
「ああ、今日はパートの日だな。多分夜の七時くらいまでは帰って来ないと思う」
「そっか。へへ……じゃあ部屋に二人きり、だな」
「〜〜っ!! お、おぅ」
コイツ、人が気づいていたのに口に出さなかったことをわざわざ。あとなんだそれ。その表情! めちゃくちゃ嬉しそうじゃないか……。
「早く行こうぜ! 門限までたっぷり遊ぶぞぉ〜!!」
「元気だなぁ。どんだけ嬉しいんだか」
俺の部屋の場所は分かっているため、葵は一人で階段を駆け上がっていく。
まるで久しぶりに来た時かのようなテンションだ。まあつまらなそうにしてるよりはよっぽど良いけども。
「って、あれ? どうしたんだよ。入らないのか?」
「……」
と、思っていたのも束の間。その背中を追って階段を上がると、葵は俺の部屋の扉を開けた状態で固まっていた。
何かあったのだろうか。いやまあ、何かあったんだろうな。俺何か片付け忘れたっけ?
散らかっているということは無いと思う。せいぜい転がっていてもゲームのコントローラーと数冊の漫画くらいだったはずだ。
そしてこういう時のお決まり的な″そういう本″は俺の部屋には無い。漫画の内容だってそこまで過激なものでは無いし、というか葵も借りて読んでいたはず。まあその漫画家さんのお尻の描き方が凄く綺麗で見惚れたから衝動買いしたってのは言ってないけども。
まあとにかく、葵が見て驚きのあまり身体を硬直させるようなものは何もないはずだ。本当になんでそんな反応をしているのか全く検討もつかない。
「オイオイ、なんか言えって。急に喋らなくなったらびっくりするだろ」
「……じゃあ部屋に入ってみろよ。そしたらその身でよ〜く理由を感じ取れると思うぞ」
「ははは、そんな変なもの無いって。ったく、何をそんな……にィッ!?」
「さて、説明をしてもらおうか。あれは一体なんだ? ド変態野郎」
俺は思わず目を疑った。
が、何度目を擦ってもそこに広がっている光景は変わらない。
……お尻だ。これでもかというくらいドアップなお尻。紫の衣装に身を包み崖をよじ登っている女の子キャラのお尻が、ゲームと接続されているモニターに映し出されていたのだ。
(し、しまった。そうだ、昨日……寝る前にお尻鑑賞をしてから画面そのままだった!?)
昨日の夜。俺は『オリジナルゴッド』という名のゲームをプレイしていた。
内容としては様々なキャラを使い広大なフィールドでモンスターと戦ったり、ストーリーを進めたりというRPG。そしてこのゲームはなんといってもキャラデザが良く、男キャラ女キャラ共に全ての層から愛されている大人気ゲームだ。
だが俺はそんないわば国民的ゲームとも呼べるそれで、男の欲望を全開にした遊びをしていた。
そう、お尻鑑賞である。
グラフィックの良さと視野の回転幅の自由性をふんだんに利用し、俺の推しキャラのお尻が一番良く映るポイントを探していた。
そして行き着いた結論は崖登りの最中、片脚を若干上げた体制でのローアングル。紫のローブの下から魅せる黒タイツと、その下にあるパンツのライン。そしてなんと言っても素晴らしいのは片脚が上がったことにより強調されるお尻の丸み。
この完璧なアングルでの観察をしばらく続けた後、俺は満足感から寝落ち。朝も葵との集合時間ギリギリに起きることとなってしまい、画面をそのまま放置していたのだ。
その結果がこれである。一番見つかってはいけない画面を一番見つかってはいけない相手に。……どうしよう。
「お、俺ちょっとお手洗いに……」
「逃がさねえよ?」
「ひえっ!?」
ガチャンッ。
部屋の扉の鍵が閉められる無慈悲な金属音が、脳内で反響した。