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第14話 反省文

「……で? その先生にクソほど怒られて反省文に追われていると」


「ぷひゃ〜っ! やっぱりド変態だ〜!! っと、あれ? あれれ〜? もう一人反省文に頭を悩ませている哀れな子羊がいるにゃ〜? あ〜っ! そうだ、こっちもド変態なんだった〜!!」


「「……」」


 単刀直入に言おう。バトルは始まる寸前で乱入者が来てぶち壊された。


 そう、もうお察しの人もいるだろう。俺たちは女子の体育を覗いて熱い気持ちを語っているところを先生に見つかったのである。


 その結果がこれだ。課されたのは本日中に提出することを命じられた原稿用紙三枚の反省文。


 三枚だぞ? 一枚四百文字だから千二百文字。え、殺す気ですか? しかもこれを本日中て……。


 読書感想文でこれくらいの文字数を書いたことがあるにはあるものの、あれは言わばテーマが決められた、もしくは自分で決めることができたものだ。それに比べて今回は「反省の気持ちを書いてこい。感じ取れなければ次は肉体的苦痛で反省をさせる」と無理やりこれを渡されたのである。


 なんだよ肉体的苦痛って。この色々と厳しいご時世に体育教師がしていい発言じゃないぞ。


 多分殴られたりどつかれたりはしないと思うが……もしこの反省文で反省の色を見せることができなければ走らされたり筋トレさせられたりは覚悟したいといけないだろう。絶対嫌だ。そんなのやらされたら死ぬ。


「クッソ、なんで俺まで……」


「ふっふっふ〜、無様だにゃ〜♪ や〜い変態、バカ大和〜っ♪」


「うるせぇ運動音痴。五十メートルも全力疾走できずに崩れ落ちた挙句過呼吸でリバースしてた奴が調子乗んな」


「!!? ちょ、それも見てたの!?」


「はぁ……オイ晴翔、お前は何見てたんだ?」


「へっ? い、いやぁ……えっと……」


「正直に言おう、な?」


「…………ひゃいっ」


 ああ、駄目だ。どうやら鬼教官は一人だけじゃないらしい。


 分かりやすく眉間に皺を寄せながらも怒りが感じ取れる分より怖い笑顔を纏う葵は、ゆっくりと近づいて俺を心の底から震え上がらせる。


 葵のお尻を見ていた、と素直に言うべきだろうか。仮に他の女子のお尻を見ていたと言ってもそれはそれで問題があるし。……まあ、葵のお尻でも勿論怒られるのは確定なんだけども。


 それのおそらくコイツは俺がお尻を見ていたことくらい勘付いているだろう。何年も幼なじみからお尻に視線を当てられ続けた奴だ。面構えが違う。


「あ、葵の……お尻、を……見て……まひた……」


「ほぉ〜〜〜〜う」


 こ、殺されるんじゃないだろうか。これならいっそのこと怒鳴りつけられたりぶん殴られたりした方が感情が見えていい。


 なんだその意味深な笑顔。怖い、マジで怖い。チビりそう。


「ま、素直に私のを見てたって白状したからな。特別に許してやる」


「……え?」


「え、じゃねえよ。まーもう罰は食らってるみたいだしな。ほら、さっさと書き終えろよ。じゃないと一緒に帰れないだろ?」


「い、いいのか? 俺お前のお尻を凝視してたんだぞ? しかもその上で熱い想いを語ってるところまで見られて……」


「いいって言ってんだろ。ただしその反省文とっとと仕上げないとしばく」


「あ、あいあいさーっ!! 一時間……いや、三十分で終わらせる! マジで死ぬ気でやります!!」


「よろしい。取り掛かれぃ」


「へへ〜、勿論私は待たないからね。せいぜい一人で頑張りなさいな、ド変態戦艦大和さんっ♪」


「てんめぇ……クソギャルが……ッ!!」


 気づけば教室には四人だけ。その状態から中月も出て行き、三人になった。


 そして俺は約束通り、死ぬ気でペンを走らせて反省文を書き終えると体育教官室に一人でそれを提出しに行きようやく苦痛から解放されることとなる。


「じゃ、帰るか。ったく待たせやがってよぉ」


「ごめん、ごめんて……でもちゃんと約束は守ったろ?」


「まあ、な。そこだけは評価してやるよ」


「くそぅ、くそぅ……っ! なんで飛び火食らった俺は教室で一人苦しんで、あのド変態だけあんないい思いしてんだ!? 覚えてろよマジでぇ……ッッ!!」




 ちなみに、理系で現代文が大の苦手な大和がその後反省文を書くのにどれほどの時間と労力をかけたのか。俺は知るよしもない。

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