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第13話 体育とはお尻観察の場である

「……ということがあってな?」


「ふむ。とりあえずリア充は失せろ」


「口悪いな!?」


 誰がリア充だ誰が。


 俺は先日葵と仲直りをしたこと、そしてさっきの昼休みはアイツの手作り弁当を食べたことを大和に話した。


 五限が終わった途端自分から早く教えろと掴みかかってきたくせに、なぜ素直に話したら失せろなんて言われなければいけないのか。酷い。


「お前、白坂さんとは本当にただの幼なじみに戻ったんだよな? 付き合い始めたの間違いじゃないよな?」


「いやどんな間違いだよそれ。俺とアイツは今、正真正銘ただの幼なじみだっての」


「た、ただの幼なじみが朝から手繋ぎ登校したうえ、手作り弁当まで……」


 いやまあ……うん。大和の言いたいことも分かるけども。そこはもう俺も色々と考えてる最中だから深く突っ込まないでほしい。


「って、ヤバいぞ。そろそろ六限始まる」


「あ、待てコラ! くそぅ、なんでこのド変態にはあんな可愛い彼女(仮)がいて俺にはいないんだ……」


 何やら悲しい呟きが聞こえたが親友のよしみで聞き流すとしよう。


 体操服の上からジャージを羽織り、シューズを履いて体育館への階段を登る。


 六限は体育だ。確か第一回の授業はいきなりスポーツテストから始まるんだとか。正直少し気が重い。


 明らかに怖い感じな肩幅バケモノ先生の説明を聞いていると、どうやら種目は七つもあるらしい。


 五十メートル走、シャトルラン、握力測定、ハンドボール投げ、反復横跳び、立ち幅跳び、長座体前屈。今日は体育館なのでシャトルランと握力測定、長座体前屈をするらしい。


「うへぇ、シャトルランかよ。あれクッソ疲れるから嫌なんだよなぁ……」


「それな。俺なんてただでさえ体力無いから最悪だ。でも大和は一応運動部だったわけだし、それなりには良い記録出せるんじゃ?」


「馬鹿お前、変に出せるからこそしんどいんだろうが。これ成績に直結するらしいからサボる訳にもいかないしなぁ……ぜぇはぁ言いながら崩れ落ちる俺の姿が目に浮かぶわ」


 そ、そうか。運動神経が良い奴は正直楽勝なんじゃないかと思っていたんだが、どうやらそんな単純な話でもないらしい。


 シャトルランは運動神経……というかとにかく体力がある奴は無限に続けることができる。だがその分、最初の方にリタイアした人より長く走らなければいけないわけで。大和の場合人よりも体力がある分ある意味しんどい思いをするわけだ。


「よし、じゃあまずは軽くウォーミングの体操とランニング二周。それが終わったら二つの班に分けて片方はシャトルラン、もう片方はそれ以外の測定だ」


 ただ、悪いことばかりではない。大和はどうか知らないが、少なくとも既に俺はそれに気づいていた。


 スポーツテストは面倒だ。だが唯一、二つの班に分かれるという特性だけは大きい。シャトルランなんてどうせ時間がかかるし、反復横跳びと握力、長座体前屈をする程度で待ち時間を全て潰せるわけじゃないだろう。


 つまり確実に休憩時間が訪れる。そして俺はその時間に……。


(もし気づいてなかったら、大和にも教えてやるか)


 一人心の中でそんなことを呟いて。俺は周りが立ち上がってランニングに向かう背中を追いかけながら、走り始めたのだった。


◇◇◇◇


「うん……やっぱり、な。ここの体操服はブルマとまではいかないが若干太ももの辺りの丈が細く作られてる。あれで太ももを一切締め付けないようサイズを選ぼうと思えば確実に腰回りの大きさが合わないから、気持ち少し小さく感じるものを選びざるを得ない。その結果裏ももの特に上部の側が膝を曲げる度に締まり、腰部分の布が引っ張られることによって丸みを帯びたお尻の形がより良く強調されるわけだ。決してその形の全貌が分かるほどの締め付けじゃないが、むしろそこがいい。そういうのをするのはパンツや水着の仕事だからな。体操服というあくまでも服の観点でお尻を強調させるならばあのサイズがベスト。緩すぎず、キツすぎず。特に葵の持つ桃尻にはあのしなやかな生地が馴染むことに加えて若干前傾姿勢なあの走り方も功を奏して太ももを上げた瞬間のお尻は美しい曲線美を描いて揺れている。体操服をズボンにインしなければいけないという昔から続くこの謎風習も最高だな。ただでさえスタイルが良いアイツだから腰回りの細さは目立つし、その上で……だからこその細い身体のラインから逸脱した膨らみがより一層魅力を増す。この体操服を開発した人は天才か? ぜひ一度面と向かってお礼を言いたい。そしてその開発に至った経緯と熱いお尻への情熱を語り合って────」


「……お前、流石にキモいぞ?」


「なっ!?」


 外の運動場で五十メートル走を走る葵を見ながら熱い気持ちを語る俺を、そう言って大和は一蹴する。


 この体育館は二階だ。一回には柔道や空手なんかをするための畳がある。


 そして二階となると、当然壁に扉なんかはつけられない。つけれるのはおおよそ俺たちの膝あたりまでしか近さのない小窓だけ。


 だがそれで充分だ。″女子の体育を覗く″には。


「あのなぁ。俺だって胸派のはしくれ。そりゃあ女子の体育を見てれば色々と思うことはある。けど普通そこまでキモい文章がスラスラと浮かぶもんか?」


「キ、キモいとはなんだキモいとは。俺はただ初恋のお尻に対する想いをだな……」


「初恋の人みたいに言うんじゃねえ。って、お。次中月が走るぞ」


 ったく、どうしてコイツは理解してくれないのか。葵に告白する前、お尻についてのことを伏せていた時はあれだけ真摯になって相談に乗ってくれていたというのに。まさか恋をしていたのがお尻だと知った途端ここまで邪険にされるとは。


「はは、アイツ運動音痴だからなぁ。案の定最下位位でやんの。後で揶揄ってやるか」


「けっ、所詮想いも語ることができない偽物め。お前の胸への気持ちはその程度ってこったな」


「……あ゛あ゛ん? テメェ今なんつったコラ」


 全く、常識人ぶるものじゃない。俺を棚に上げて自分を隠すのはやめろよ。


 葵との年月ほどじゃないが、お前ともそれなりに長く親友をやってるんだ。俺より想いが下なのは分かってるが、それでも。確かに熱い気持ちを持っているはずだろう、お前は。


「いいか、おっぱいってのはだな。男のオアシスなんだよ。おっぱいは女の子の前についていて、お尻は後ろについている。つまり本能的に人間って生物はお尻よりもおっぱいを見せることを優先して進化してきたんだ。わざわざ後ろを向かなきゃ見せることすらできない部位とは鼻から競うことすら必要無い。何が胸派かお尻派か、だ。俺からすればお尻は同じ土俵に立つことすらおこがましいと説教垂れてやりたいね」


「……お前、今俺に喧嘩を売ったな? 売ったってことでいいんだよな? よし分かった。今からお前にお尻がいかに高尚で尊く、素晴らしいものなのかをレクチャーしてやる」


「は〜ん? じゃあ俺からもお前をお尻派なんて邪教から脱退できるようおっぱいの魅力を伝授してやるよ。世話のやける奴だぜ全く」




 胸派とお尻派。性癖二大勢力に分離し異なるものを信仰してきた俺たちのバトルが今、始まろうとしていた。

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