用件を済ませたその足取りで、駅へと向かうバスに乗り込む。まだ時間が早いという事もあり車内が空いていたため、定位置である一番後ろの席に座る。
流れゆく四季折々の風景。
鮮やかな桜並木も今では、新緑の眩しい季節になった。その先には金木犀通りもあって、秋になれば黄昏色に染まる。その儚い美しさを月伽は気に入っていた。
「そういえば、希石先輩が淹れてくれた金木犀のお茶は絶品でしたね。効能のことまで熱く語ってくれましたし」
希石はああ見えて、お茶を飲む時間と植物を手入れする時間に何より趣を置いている。月伽もティータイムにはうるさい方だが、その上をいくのが希石である。
茶菓子も行きつけの専門店から取り寄せ、納得がいかないと抗議するくらいだ。
――否定などしようがないくらい、完璧なんですよね。すべてが。
――金木犀通り。淡く溶け込み、ほんの些細なことで消えてしまうような夢幻の空間。“神隠し通り”という異名まであるくらいだ。泡沫市は金木犀でも有名だと聞いた。
それが誰だったのか、忘れてしまったけれど。
「また秋になったら、淹れてもらいましょうか」
叶うかどうかは約束できないが。そんな日が訪れるのを思い描いて、月伽は目を細めた。