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◆死に魅入られた者 6

 植物に水をやり終えた希石は、どうせいつものことだとすでに諦めていた。いつものことだから、月伽の話を聞き終えた後も極めて冷静だった。



「了解した。伝えとく」


「お願いします。でも残念ですね」


「なにが」


「希石先輩、泣いてくれないんですもの」


「うるさい」


「泣いた先輩も好きなのに」



 くすくす笑う月伽。ひとしきり笑って、くるりと背を向ける。女から泣いているところも好きだと言われて何が嬉しいものか。希石からしたら理解不能である。




「帰ったら、またここで会いましょう」


「――月伽。必ず帰ってこいよ、しょうがねぇから待っててやる」


「変な先輩。しょうがないから、帰ってさしあげます」



 これが月伽と交わした最後の言葉だった。


 これが彼女との日常会話。


 いつも彼女特有の雰囲気、ペースに狂わされて終わる。



 ――あまりにもいつも通りだから理解できなかったかもしれない、真実を。






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