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◆死に魅入られた者 5

 翌日。少女は早朝から学園に向かった。



 きっといつものように、庭園の植物たちに水やりをしているだろう。その一時(ひととき)こそが、言葉を交わす約束であり休息という名の癒し――あの人との、秘密だ。



 門番に通交証を見せ、それからアルカナ庭園の方へ足を運ぶ。“アルカナ庭園”は学園の中でかなり力を入れた場所のひとつで、ありとあらゆるコネを行使して造設した学園自慢の名所である。



 月伽も高く評価している。読書するスペース、ティータイムをするスペース、占いをするスペースまである。生徒のみならず先生からも人気だと聞く。



 月伽が探す前にあの人はいつも定位置にいた。



 さながら童話の王子様風の少年に、少女は笑みを浮かべて挨拶をする。



「おはようございます。――希石(きせき)先輩」


「……月伽(げっか)か。“先輩”だなんて思ってないくせに」


「さすが先輩です」


「いや、褒めてねぇよ」


「容姿と口調、合ってませんよ」


「それは悪うございましたねお嬢様。で、今日は何用だ。それだけじゃねぇだろ」


「相変わらず察しがよろしいようで」




 お互い軽口を叩く。これでも褒めているつもりなのだが、あくまでも月伽はである。そんな仲になったのもまたとんでもない話だが、それはまた別の物語。



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