明日から一週間学園には休み届けをだそうと少女は決めた。ちょっとした旅に出るのだ。学問には興味ないが、死と都市伝説の
少女はランプの灯ひとつしかない部屋の中儚く昏い歌を紡ぎながら、どこか愉しげにクローゼットを開く。ノスタルジックな香り漂うアンティークのトランクケースを取り出す、旅路にはやはり華を添えなければならない。
特別な物語となるのだから。
ほどよい大きさのトランクケースで、ちょっとした旅路にはこれがいいのだ。
煌めきのない夜空を想わせるワンピース、道中読むための幻想物語、日記帳、透明水彩菓子、常備薬を詰め込む。これらすべては旅先で立ち寄った伝統のある店で店主と語り合いながら買ってきた極上のものだ。
買ってきた物の一つ一つにある不思議な物語をここぞとばかりに教えてくれた。店主の創作話も中には入り混じっていたが、作家志望ゆえの癖が抜けないらしかった。学生時代に書いた物語も読ませてくれた。『狐の花道』や『夢見の鳥』――少女に文才も優れた感性もないが、物語に沈むように熱中してまったから、もしかしたら本当にいつか本を出せるかもしれない。
少女はある人物の顔を思い浮かべる。
最も近しいようで、遠い、あの人を。
「明日はあの人に顔出しでもしようかしら。どんな顔で、出迎えてくれるのか楽しみね」
寝間着のワンピースと朝露の薔薇の入浴剤を持って、少女は部屋を後にした。今宵は、そんな気分だった。