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36 想いが伝わりました

 リリーの後ろ姿を見送ったあとに、ロベリアはダグラスに頭を下げた。


「リリーが失礼なことを言って申し訳ありません。その、驚きましたよね?」


 可憐な美少女リリーにいきなり罵られたのだから、どれほど驚いているかと思ったがダグラスは平然としていた。


「いえ、リリー様はああいう感じの方だろうと、以前から思っていました」


(さ、さすがダグラス様!)


 ここまでくると優秀過ぎて、ダグラスにできないことがないのではないかと思えてきた。ロベリアがまじまじとダグラスを見つめると、ダグラスの頬は赤く染まっていく。


「ロベリア様、先ほど私に『最後のお願い』とおっしゃいましたよね? 私の護衛はもう必要ありませんか?」

「あ、はい」


 アランからリリーを守ることができたので、もうダグラスの護衛は必要ない。


「ダグラス様、ありがとうございました」


 ロベリアがニコリと微笑みかけると、ダグラスは「では、これまでのロベリア様への数々のご無礼を許していただけますか?」と、まるで主人に怒られている大型犬のような表情を浮かべた。


(可愛い……)


 キュンとときめきながら「許します……というより、初めから気にしていませんでした」と伝えると、ダグラスはパァと表情を輝かせた。


「で、では、改めまして!」と、ダグラスが保健室の入口でひざまずいたのでロベリアは慌てた。


「や、やめてください!?」

「え? しかし……」


 『こんなところを誰かに見られたら、どう思われるか』とロベリアが慌てていると、保健の先生と目があった。保健の先生は、苦笑したあとに「私は少し席を外すから、ここで話していいわよ」と言い残して保健室から出て行ってしまう。


(い、いいのかしら?)


 戸惑っているロベリアとは違い、ひざまずいたままのダグラスは真剣そのものだった。鋭く意志の強そうな漆黒の瞳が、ロベリアをまっすぐ見つめている。


「ロベリア様は、全てのお願いが終わったとき、私の気持ちが変わっていなければ、もう一度私の想いをお聞かせくださいとおっしゃっていました」


 確かにロベリアはそう言った。


「では、今のダグラス様のお気持ちをお聞かせ願えますか?」


 ロベリアが尋ねると、ダグラスは苦しそうに視線をそらした。


「私は恥ずかしいことに、ロベリア様のことを何も知りませんでした。ロベリア様に大規模なファンクラブがあることも、ロベリア様を守る影のような存在がいることも」


 ダグラスは、見えないソルの存在をロベリアの護衛と解釈したようだ。


「改めて、私などがロベリア様を想うことが、どれほど愚かなことなのか理解しました」


(ああ……リリーが言っていた通りだわ)


 ダグラスの言葉は、ときめきとは程遠く、ロベリアは『これが侯爵令嬢と伯爵家の三男の現実なのね』と寂しさと共にようやく理解した。うつむいたロベリアが全てを諦めて、失恋を受け入れようとしたそのとき、「ですが!」という大声で保健室内の空気がビリビリと震えた。


「私は、あきらめられません!」


 驚いて顔を上げたロベリアの瞳に、必死なダグラスが映った。


「私はロベリア様にお会いして初めて人を好きになりました! そして、人を好きになるのは、これが最初で最後です。確かにカマル殿下に告白するように背中を押していただきました! しかし、それ以前から私はロベリア様を愛していました! 必ず貴方に相応しい男になります、どうか私を選んでください!」


 胸がいっぱいになって、ロベリアの瞳に涙が滲んだ。両腕を伸ばすと、ロベリアはひざまずいているダグラスの首元に抱きついた。


「……好き。大好き! ダグラス様ほど素敵な方は他にいません!」


 ロベリアの腕の中で、ダグラスは固まってしまった。


「ダグラス様?」


 ハッと我に返ったダグラスからは「……信じられない」と言う呟きが聞こえてくる。


「私もです。夢みたい」


 幸せをかみしめながらロベリアが微笑むと、ダグラスはおそるおそる戸惑いながらロベリアの背中に腕を回し抱きしめてくれた。


 嬉しくなってダグラスに寄りかかると、ダグラスから「う、ぁわ、え」と意味不明な声が漏れる。


 少しだけ不安になったロベリアが「やっぱり私のこと『嫌だ』って言っても、もう離しませんからね?」と睨みつけると、耳まで赤くしたダグラスからは「は、はい!」と元気なお返事が返ってきた。

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