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29 妹が可愛すぎてつらいです

 ロベリアは、走り去ってしまったリリーを見つけるために、学園内を必死に探し回っていた。ダグラスも一緒に探してくれたが、日が暮れてもリリーを見つけることはできなかった。


(私がリリーの意見も聞かずに、勝手にダグラス様に護衛を頼んだからだわ)


 リリーがダグラスを良く思っていないことを知っていたのに、リリーを守るためとはいえ、無神経なことをしてしまった。


(どうしよう……。リリーが、どこかでカマルにひどい目にあわされていたり、アランに捕まっていたりしたら……)


 ロベリアが、不安に押しつぶされそうになっていると、部活棟のほうを探しにいっていたダグラスが戻ってくる。


「いませんでした」

「そうですか……」


 日が暮れると共に悪いことばかり考えてしまい、両手が小刻みに震えた。


 ダグラスが心配そうに「ロベリア様」と言った同時に、「お姉様?」と可憐な声が聞こえた。勢い良く振り返ったロベリアの瞳に、大切な妹の姿が写る。


「リリー!」


 すぐに駆け寄り、リリーの安全を確認した。


「だ、大丈夫? 何かひどいことをされていない?」


 リリーは「お姉様は、大げさね」とクスッと笑った。


「だって、リリーが心配で! 貴女の意見も聞かずに、勝手にダグラス様に護衛を頼んでごめんなさい!」

「ううん、それはもういいの」


 ニコリと微笑むリリーは、なぜかいつもより大人っぽく見えた。リリーは、ロベリアに「心配かけてごめんなさい」と謝ったあとに、ダグラスに視線を向けた。


「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。これから護衛をしてくださるということで、よろしくお願いいたします」


 ニッコリと花が開くように可憐に微笑んだリリーを見て、ロベリアはズギュンと胸を貫かれた。


(可愛い! 私の妹が最高に可愛いわ!)


 儚げ系美少女の微笑みという破壊力の高い攻撃を受けても、ダグラスはノーダメージだったようで、「いえ、お気になさらず」と淡々と返しているし、なんなら少し引いている。


(すごいわ。ダグラス様って本当に女性が苦手なのね)


 そんなダグラスに、告白されたロベリアは『もしかして私、女性っぽくない?』と不安になった。


(って、そんなことより、今はリリーの無事を確認しなくっちゃ!)


 ロベリアは、リリーの手を握りしめた。


「ねぇ、リリー。一人のときに、カマルに言い寄られなかった?」

「うん、大丈夫よ」

「アランは? アランにも会っていないわよね?」

「アラン? どうして?」


 どうしてと聞かれても、リリーに『私たちの幼馴染はサイコパスで、犯罪者予備軍なの』と本当のことは言えない。


「えっと、なんとなくアランも気をつけたほうがいいかなと思って」

「そうなの? うん、大丈夫、誰にも会ってないよ!」


 リリーの返事を聞いて、ロベリアは胸をなでおろした。


「良かった……。とにかくリリー、しばらく一人にならないでね?」

「ごめんなさい、お姉様」


 しょんぼりしてしまったリリーを抱き締めたあと、ロベリアはダグラスにお礼を言った。


「ダグラス様。一緒に探してくださり、ありがとうございました」

「いいえ、お役に立てず、申しわけありません」


 そう言ったダグラスは、女子寮の前まで送ってくれた。


「ダグラス様。今日はもう時間も遅いので、食堂には行きません。護衛はここまででけっこうです」

「はい」


 リリーはロベリアの背後に隠れながら「ダグラス様、明日も護衛してくれますか?」と遠慮がちに尋ねた。


「はい、ロベリア様がお許しくだされば」


 ダグラスがロベリアに許可を取るように視線を寄越したので、ロベリアは「ぜひ、お願いします」と伝える。


 それを聞いたダグラスは、一瞬、嬉しそうに顔を輝かせたあと、礼儀正しく頭を下げてから去って行った。その後ろ姿をリリーと一緒に見送っているとリリーがポツリと「ダグラス様って素敵ね」と言ってくれた。


「そう、そうなのよ! 分かってくれて嬉しいわ!」


 食い気味にロベリアが同意すると、リリーはイタズラっこのような笑みを浮かべた。


*


 ダグラスに護衛してもらってから三日がたった。


 リリーは、ぴょんと可愛く跳ねてダグラスの腕にふれようとしたが、ダグラスがスッとリリーをよけた。


 その一連の流れを見ていたロベリアは、「どうして、よけるんですかぁ?」と甘えた声を出すリリーの可愛さに苦しくなる。


(わ、私の『推し(リリー)』と『推し(ダグラス様)』が交流しているわ!)


 感動に打ち震えるロベリアは、今起こったことを録画して永久保存したいと思った。


(私の妹はなんて可愛いの!? あと、ダグラス様も国宝級の美少女を前にしても、少しもキャラがブレないわね)


 しきりに感心していると、ダグラスが困ったような視線をロベリアに向ける。


「あ、えっと、リリー。ダグラス様が困っているわ。少し離れて?」

「ええー」


 すねるように唇をとがらせたリリーが可愛すぎて、ロベリアはもう我慢ができなくなった。


「ああっもう、リリーが可愛すぎるわ! どうして貴女はこんなにも可愛いの!?」


 ギュッと抱きしめると、ロベリアの腕の中でリリーが「ちょ、お姉様!?」と驚いている。


 リリーは腕の中で暴れながら「もうっ! お姉様は、ぼんやりしすぎよっ! もっと状況をよく見てよぉ!? ここは私を怒るところでしょう!?」と頬を膨らませたので、ロベリアは「はーん、可愛い!」とさらにリリーを抱きしめた。

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