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25 味方ができそうです

 ソルが帰ったあと、ロベリアはホッと安堵のため息をついた。


(良かった……)


 レグリオの兄は殺されずに済んだし、ソルから次の指令を受けることもなかった。


(あとはソルが無事に媚薬売買の事件を解決してくれるのを祈るだけね。これでリリーの安全も少しは確保できたかしら?)


 媚薬売買の事件が解決すれば、少なくとも、ゲーム内で起こった媚薬関連のイベントは、今後は起こらないだろう。


(あとは、リリーが素敵な男性に出会って、幸せな恋をしてくれれば完璧ね!)


 昨日、カマルに手首をつかまれて震えていたリリーを見る限り、カマルにリリーは任せられない。


(アランとソルは論外だし……やっぱりレグリオかしら? いや、むしろゲームにまったく関係ない好青年を探すとか?)


 そんなことを考えていると、自室の扉がノックされた。扉を開けるとリリーがいた。


「お姉様、おはようございます」

「おはよう、リリー」


 リリーの可愛らしい笑みを見て、昨日のカマルとの一件が彼女のトラウマになっていなさそうでロベリアは安心した。


「朝食をご一緒しませんか?」

「そうね、行きましょう」


 リリーと並んで歩き女子寮の一階へと降りていくと、そこには、早朝にも関わらず人だかりができていた。


「何かあったのかしら?」


 ザワザワと騒めく女生徒たちに近づくと、怯えるような囁きが聞こえてくる。


「怖いわ」

「誰か先生を呼びに行ったほうがいいんじゃ……」


 彼女たちの視線の先を見ると、女子寮の入口に黒髪の男子生徒が見えた。


(あれは……ダグラス様!?)


 なぜかカマルの姿はなく、ダグラスが一人で佇んでいる。


(ど、どうしたのかしら?)


 目立つことが嫌いなダグラスが、女子寮の入口に立っているなど、よっぽどの理由がありそうだ。ものすごく気になったが、ダグラスに『もう二度と声をかけない』と約束をしたので、ロベリアにはどうすることもできない。


「リリー、今日は食堂に行かず、寮内にある購買で買ってお部屋で食べない?」


 ロベリアがそう誘うとリリーも、女子寮の入口を見ながら「そのほうが良さそうね」と固い表情で同意する。


「お姉様、だったらレナも誘わない?」


 レナは、レグリオが女装している姿だ。


(レグリオがリリーに相応しい相手か、探るのにちょうどいいわね)


 ロベリアは、「そうね、それはいいわね」とニッコリと微笑んだ。


 購買でサンドイッチと飲み物を購入してから、リリーとロベリアは、レナの部屋へと向かった。


 リリーが扉をノックすると、扉の隙間から、すぐにプラチナブロンドの美少女が顔を出す。


「レナ、おはよう!」


 明るく挨拶をするリリーを見て、レナは「あれ、リリー? もう朝?」と紫水晶のように綺麗な瞳をパチパチと瞬かせた。


「もう朝って、もしかしてレナ、また寝ていないの!?」


 驚くリリーに、レナは慌てて首を振る。


「違うの、寝たけど、わ、わたし、少し寝たら大丈夫な体質で……」


 レナの言葉を聞きながらロベリアは、前世の記憶から『ショートスリーパー』という言葉を思い出していた。


(確か、短い睡眠だけで健康を保っていられる人のことよね? 本当かどうかは分からないけど、レオナルド・ダ・ヴィンチや、エジソンもショートスリーパーだったっていう説があったはず)


 それだけではなく、他にも多くの偉人がショートスリーパーだと言われている。

 本来なら人間は、健康を維持するために、6~8時間ほど睡眠をとる必要があるが、ショートスリーパーは3~4時間ほどの睡眠で健康を維持できるらしい。


(まぁ、ショートスリーパーと言っても、それなりに仮眠はとっていたらしいけど)


 そういう記憶があったので、ゲーム内で世紀の天才と呼ばれるレグリオがショートスリーパーなのは納得ができた。


 リリーが「レナ、ちゃんと寝ないとダメよ」と心配そうな顔をすると、リリーに心配をかけたくないのか、レナはアワアワしながら「うん」とうなずく。


(お互いを思い合う美少女、尊いわ……。いやレナは、本当は美少年だけど。この二人、性格的には合っているのよね)


 二人の関係は、友情の域を出ていないが相性はばっちりだ。


 リリーが「三人で一緒に朝ご飯を食べない?」と言いながら買ってきたサンドイッチを見せると、レナは瞳を輝かせてコクコクとうなずく。


「よければ中にどうぞ。少し散らかっていますが……」


 レナの部屋に入ると、勉強机の周りにたくさんの画用紙が落ちていた。


 リリーが「絵を描いていたの?」と尋ねると、レナは頬を赤くそめる。


「う、うん、見る?」

「見る見るー!」


 リリーは、嬉しそうに画用紙を拾い集めると感嘆の声をあげた。


「わぁ、すごい! お姉様と私がたくさん! 見てみてお姉様!」


 リリーが見せてくれた画用紙には、いろんなロベリアとリリーが描かれている。


「本当、すごいわね……」


 可愛らしいリリーのイラストを見て、ロベリアは、ついさっきソルが見せてくれたファンクラブの会報誌のことを思い出した。


(あのときは貰えなかったけど、今ならリリーのイラストがもらえるかも?)


 ドキドキしながらレナにリリーのイラストを一枚ほしいと伝えると、レナに「あ、ごめんなさい……」と謝られてしまう。


「これは、頼まれて描いたものなんです。だから……」

「そうなの、なら仕方ないわね……って、私たちのイラストを頼まれたの? 誰に?」


 ロベリアが追及すると、レナは「あっ」と呟き視線を彷徨わせた。


 リリーは「誰でもいいじゃない。レナの絵は素敵だから、みんなほしくなっちゃうのよ。早くサンドイッチを食べましょう」とのんきなことを言っている。


(ま、まぁ、そうよね。まさか私のファンクラブ会員がレナにイラストを依頼したなんて、そんなバカげたことはないわよね。それに、もしそうだったとしても、別に何か問題があるわけじゃないし……)


 リリーを守りたいという気持ちが強すぎて、少し神経質になっているようだ。気持ちを切り替えてロベリアは、三人で楽しく食事をした。


 食事が終わり、リリーが「私、トイレに行ってくるね!」と部屋から出て行くと、レナに「あ、あの」と声をかけられた。


「どうしたの?」


 レナは、モジモジしたあとに、「前にロベリア様がおっしゃっていた『リリーの安全のため』というお話、どうなりましたか?」と尋ねてきた。


 以前に気化麻酔薬について話を聞いたときのことを、レナは心配してくれているようだ。ロベリアはレナにニッコリと微笑みかけた。


「あの件は、もう大丈夫なの。心配かけてごめんなさいね」


 そう伝えるとレナは、ホッと胸をなでおろした。そして、チラリと上目遣いでロベリアを見る。


「ロベリア様、もし、わ、わたしの勘違いだったらすみません。もしかして、ロベリア様は『不思議な記憶』がありませんか?」


 レナの言葉にロベリアは大きく目を見開いた。


(不思議な記憶って……もしかして、転生前の記憶のこと!?)


 驚きすぎてロベリアが何も言えずにいると、レナは慌てて両手のひらをこちらに向けて振った。


「あ、あの、なかったらいいんです! ただ、少しだけ気になることがあって……」

「気になることって? それ、聞いてもいいかしら?」


 レナは困ったように、うつむいた。


「あの、本当に大したことではないんですけど、古い伝承で、王国や王族に危機が迫ったとき、その周囲の人に不思議な記憶がよみがえり、その記憶を使って危険を回避したという逸話があるのです。わ、わたし、興味があって、以前、この件について調べていたことがありまして……」


 レナの話を聞きながらロベリアは思った。


(もし、不思議な記憶が『転生者の記憶』なら、過去に、私以外にも転生の記憶を使って運命を変えた人がいたのかもしれない。レナに私が転生前の記憶を持っていると言っても大丈夫かしら?)


 悩みながらロベリアが「レナは、どうして私にそのお話をしてくれたの?」と尋ねると、レナは「あ、あの、気化麻酔薬のときに、ロベリア様が人とは違う視線で情報を集めておられるのではないかと感じたのと、リリーを守る、という言葉でもしかして何か危ないことが起こりそうなのを阻止しようとしているのかと……。す、すみません、全てただの憶測です。そうだったらいいなと思っただけで……」と何も悪くないのに謝りながら瞳に涙を浮かべる。


(レナは悪いこじゃないし、天才レグリオが私の味方になってくれたら、もっとリリーを守れるかも?)


 覚悟を決めたロベリアが「うん……実はそうなの」と伝えると、レナは驚いた顔で固まった。


「そ、うなのですか?」

「うん、不思議な記憶というか、実は私、転生前の記憶を急に思い出して……」


 勢いよく立ち上がったレナは、勉強机からノートをひったくると、必死に何かを書き始める。


「ロベリア様、お話を続けてください!」

「う、うん」


 レナの迫力に圧倒されていると、リリーが部屋に戻ってきた。まさか、本人の前で『リリーは18禁乙女ゲームの主人公なの』とは言えず、ロベリアはそっとレナの耳元に口を寄せる。


「ごめんね、リリーには内緒にしたいの。また今度話すわね」


 レナは、必死にコクコクとうなずくと、そっとノートを閉じた。

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