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18 殿下とお話しました

 カマル王子に『ロベリアと二人だけで話したい』と言われ、ダグラスは部屋から出て行った。取り残されたロベリアは、ダグラスが出て行った扉をぼうぜんと見つめていた。


(う、ウソでしょう? ダグラス様、行っちゃった……)


 カマルは、ゲーム『悠久の檻』の中で、比較的まともなキャラだったが、二人きりになりたいとは思わない。


 ロベリアが逃げるかどうか悩んでいると、カマルは自身の口元を押さえながらクスクスと笑う。


「そんなに警戒しないで。私は、ただロベリアと話がしたいだけだから」


 カマルに座るようにうながされ、ロベリアはおそるおそるソファーに腰をかけた。


「ねぇ、ロベリア」

「は、はい」


 何を言われるのかとロベリアが構えていると、カマルはニコリと微笑んだ。


「ダグラスは、良い男でしょう?」


 そう言ったカマルの顔が、なぜか自慢げだ。


「えっと? はい、ダグラス様は、とても素敵です」


 ロベリアが素直にそう答えると、カマルはうんうんと満足そうにうなずく。


「そうだよね。ダグラスは、優秀で誠実だし、とても強くて信頼できる良い男なんだよ。それなのに、なぜか女性にモテないから、ずっとおかしいと思っていたんだ」


「そ、そうですよね!?」


 カマルの言葉に、ロベリアは激しく同意した。


「ダグラス様は、あんなに素敵なのに、怖がられて避けられるなんて、おかしいです!」

「だよね?」


 食い気味にカマルが相づちを打つ。


「嬉しいな。ロベリアとは話が合うと思ったんだよ」

「それで殿下は私を呼んだのですか?」


「そう。ダグラスのことが好きなロベリアなら、ダグラスの良さが分かっているかと思ってね。ほら、ダグラスにハンカチを渡したでしょう?」


 カマルは「積極的なロベリアになら、安心して奥手なダグラスを任せられるよ」と嬉しそうだ。


(そうだったら良かったんだけど……)


 ロベリアは、先ほどのダグラスとの会話を思い出してうつむいた。


「あの、殿下……。ダグラス様には、もうすでに想い人がいるようなのです」

「そうなの? 意外だね。ダグラスは、女性に苦手意識があるから、積極的に好意を伝えられても、君への想いに気がつくのはもっと時間がかかるかと思っていたよ」


 カマルの言葉にロベリアが首をかしげると、カマルは何を思ったのか「ダグラスが好きになるのは君しかいないよ。ロベリア」と言い切った。


「あ、いえ。違います」

「うん? ダグラスがそう言ったの?」

「はい、ダグラス様にどんな女性がお好きなのか聞いてみたのですが、私ではなかったです」


「ふーん、そうなのか。不思議だね。じゃあ、ダグラスは誰が好きなの?」

「それは……。ダグラス様の想い人を、私が勝手にお話するわけには……」


 ためらうロベリアに、カマルは「ロベリアは真面目だね。実直なダグラスにお似合いだよ」と嬉しそうだ。


「じゃあ、王子命令ということで教えてほしい」


 命令と言われてしまえば、ロベリアは従うしかない。


「ダグラス様の想い人は、『可憐で、新緑のように美しい瞳を持っていて、声をかけられるのも恐れ多いような素敵な女性』だそうです」


「ダグラスが、貴女にそう言ったの?」

「はい」


「そういう女性が好きだって?」

「はい」


「それで、ロベリアは、その想い人が自分ではないと思った?」

「はい、もちろん」


「……」


 急に静かになったカマルは、両手で顔を覆ってうつむくと、「ふっ、くっ」という苦しそうな声を漏らした。


「そ、そうか。それはそれは」


 顔を上げたカマルの肩は、なぜかカタカタと震えている。


「お、面白……ではなく、大変だな。うん、それは一大事だ」


「殿下、もしかして、笑っています?」


 カマルは、大げさに首を左右にふった。


「いや、決してそんなことはないよ! この問題を解決するのは簡単だけど、それはあまりにも過保護すぎるから、私は温かく見守らせていただくよ」

「そうですね……私もダグラス様のお邪魔だけはしないように気をつけます」


 ブフッと噴き出したあと、カマルは、「君たちは、なんというか……本当にお似合いだね」と爽やかな笑みを浮かべた。

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