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15 ハンカチを無理やりおしつけました

 ソルと分かれたロベリアは立ち上がると、スカートの裾を払った。いつまでも柱の陰に隠れて、このまま廊下に座り込んでいるわけにはいかない。


(次のソルの指令は、レグリオを探ること。レグリオは、リリーと一緒にいたから二人を探さないと)


 そうは言ってもアランの時のような緊張感はなかった。前世の『華』の記憶のおかげで、レグリオはロベリアに害がないキャラだと分かっている。


(ゲームの中のレグリオって、癒しとショタ担当って感じだもんね)


 そんなわけで、『実はレグリオに裏の顔があり、媚薬を作っていました』という展開は少しも想像できない。


(レグリオは犯人じゃないわ。それだったら、実はソルが媚薬を作っていて、私への嫌がらせに自作自演してるとかのほうが可能性がありそうだもの)


 そんなまさかと思いつつ、今の加虐趣味なソルならやりかねないと疑ってしまう。


「……そういう痛い展開はやめてよ、ほんと」

「どこか痛いのですか?」


 急に声をかけられ驚いたロベリアは、勢いよく背後を振り返った。そこには愛しのダグラスが立っていた。


「ダグラス様!?」


 勢いがありすぎたのか、ダグラスはロベリアから距離を取るように少し後ずさる。


「ロベリア様を驚かせてすみません。偶然通りかかったら『痛い』という言葉が聞こえてので、具合が悪いのかと思い声をかけさせていただきました」


 ロベリアは『なんてお優しいの!』と思ったが、独り言を聞かれてしまったのは恥ずかしい。


「きゅ、急に虫が飛び出てきて、びっくりして! そこの柱で手をぶつけてしまい……その、大丈夫です!」


 苦しい言い訳だったが、ダグラスは「そうですか」と納得してくれた。


 何か話さなければと思い、ロベリアが「ダグラス様がお一人なのは珍しいですね」と伝えると、ダグラスからは「私以外にもカマル殿下の護衛はいますので」と淡々とした答えが返ってくる。


 そしてすぐに「では」と立ち去ろうとするので、ロベリアはとっさにダグラスの制服のすそをつかんだ。


「あの、お礼! そう、お礼をさせてください!」

「お礼……ですか?」


 長い前髪に隠れて表情は分からないが、ダグラスの声は怪訝そうだ。


「はい、何度も助けていただいて、今も声をかけてくださって、とても嬉しかったので!」


 勇気を振り絞って「こ、今度、ご一緒にお茶でもいかがですか?」と誘ったが、ダグラスに「お気になさらず」とやんわりと断られた。


(はぁ……そうよね。ダグラス様ってすごく優しいけど、女性が苦手だもんね。お礼ができないのなら、せめてダグラス様の素敵なお姿を目に焼きつけようっと)


 ロベリアが背の高いダグラスを見上げてジッと見つめると、ダグラスはビクッと身体を震わせる。


「……ロベリア様」

「はい?」


 ダグラスが少し屈むと、長い前髪の隙間から、鋭いが誠実そうな黒い瞳が見えた。


「も、もしかして、泣いていますか?」

「え?」


 慌ててロベリアが目をこすると、ついさっきソルが怖すぎて号泣したことを思い出した。


「あ、いえ、これは……」


 ロベリアが否定する前に、ダグラスは自身の腰辺りをさわり何かを探している。小声で「ハンカチ、ないな。どこかに落としたか?」と聞こえてくる。


(ハンカチ、そうだわ)


 ロベリアは自身のポケットからハンカチを取り出した。


「ダグラス様、あの、これ!」


 ダグラスに差し出したハンカチには、授業で刺繍した花の模様が入っている。


「お花の刺繍で嫌かもしれませんが、落としたハンカチの代わりに良かったら使っていただけませんか?」


 固まってしまい、なかなか受け取ってくれないダグラスの手に、ロベリアはハンカチをねじ込んだ。


「よければ、今日だけでも使ってください。いらなければ捨ててくださってけっこうですから」

「捨て……? いえっ」


「あと、私は泣いていませんのでご安心ください。ダグラス様って本当にお優しいですね」


 早口でそう伝えニッコリと微笑むと、ダグラスに背を向ける。ロベリアの心臓はドキドキしているし、頬は熱があるかのように熱い。


(ゲーム内では、好きな男性に刺繍入りのハンカチをあげるイベントがあったのよね。今、そういうのが学園内で流行っているのか知らないけど、どさくさに紛れて押しつけちゃったわ)


 ロベリアは『強引すぎて嫌われたかしら?』と思ったが、『元から好かれてもいないし、気にするだけムダよね。それより今はリリーの幸せのためにもレグリオを探さないと!』とすぐに気持ちを切り替えた。

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