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13 この世界にいる理由

 学園内にある庭園の大時計の針が午後3:00を指した。それまでベンチに座って、たわいもない話をしていたアランが「じゃあ、時間だね」と言って立ち上がり、「二人ともまたね」と手を振り笑顔で去っていく。


 アランの背中が見えなくなってから、ロベリアは深いため息をついた。


(ようやく……終わったわ……)


 どっと疲れが出てきた。隣に座っていたリリーが「お姉さま、大丈夫?」と心配そうな顔をした。最近は、リリーに心配ばかりかけてしまっているような気がする。


 ロベリアは、リリーの白く小さな手をそっと握った。


「心配かけてごめんね。昨日も、夕ご飯を運んでくれて本当にありがとう」


 リリーはとても嬉しそうに微笑んだ。


「お姉さまのお役に立てて嬉しい!」


(なんって良い子なの!? こんな性格の良い超絶美少女なんて、全人類、みんな好きになっちゃうわ!)


 ロベリアが、ギュッとリリーを抱き締めると、リリーもギュッと抱きついてくる。そんなことをしていると、ふと、リリーが夕食を置くために貸してくれた勉強机用の椅子をまだ返していなかったことにロベリアは気がついた。


「あ、そうそう。貴女の椅子が私の部屋にあるから、今、返すわね」


 リリーを抱き締めていた腕を離し立ち上がろうとすると、リリーはロベリアの服の裾をつかんだ。


「お姉さま、私、もう少しだけ一緒にいたい……」


 可憐なリリーに上目づかいでお願いされると、断るという選択肢が消えてしまう。リリーでなくても、女の子の上目遣いお願いは、可愛いのかもしれない。


 今なら、ロベリアがアランの服の袖をつかんだ時に、「ロベリア、僕だからいいけど、他の人にそんなことをすると誤解されちゃうよ?」と言っていた意味が分かるような気がした。


 ロベリアはリリーの隣に座りなおし、リリーに向かって真剣な顔をする。


「リリー、そんなに可愛い仕草でお願いすると相手におかしな誤解を与えてしまうわ」

「そうなの? でも、私はお姉さまにしかしないから」


「だったらいいけど……」


 リリーがぴったりとくっついて、「お姉さま、大好き」と微笑んだとたんに、ロベリアの頭の中に激流のように映像が流れ込んできた。


(あ、これ、前に前世を思い出した時と一緒……)


 その映像の中には、前世の『華』がいた。そして何故か怒っている。彼女がプレイしていた『悠久の檻』は、攻略対象者4人を全てクリアすると、特別なシナリオが追加される仕様になっていた。


 本編シナリオとは違う新たな追加シナリオをプレイできて、『キャラの新たな一面がみれる』とゲームプレイヤーの間でも好評だった。もちろん、前世の『華』も追加シナリオを楽しんだ。


(それはまぁ、良かったんだけどさ……。ただ、エンディングがね……)


 この追加シナリオに入るには、これまでの本編にはなく、新たに追加される選択肢を選ぶことになる。それは、ロベリアとの会話に追加された『お姉さま、大好き』という選択肢だ。


 追加シナリオのリリーは、姉のロベリアに何をされても「お姉さま、大好き」の選択肢を選んでいくことになる。だからこそ、前世の『華』は、『このルートでは、リリーとロベリアが仲良くなれるんだ』と思っていた。


 しかし、結果は複数の権力ある男性を攻略し、その後ろ盾で侯爵家に君臨したリリーは、ロベリアに首輪をつけてペットのように可愛がるようになる。そして、屈辱に塗れるロベリアをうっとりと見つめながら、リリーはまたあのセリフを言うのだ。


「お姉さま、大好き」


 『華』はこのエンディングに納得できなかった。ロベリアのことは特に興味もなかったが、大好きな主人公のリリーがこんなにもロベリアのことが好きなら、最後は普通に仲良くさせてあげれば良かったのに!と、このシナリオを書いたシナリオライターにすごく腹が立ったことを思い出した。


(もしかして、『リリーとロベリアを普通に仲良くさせてあげたい』という前世の私の願いを叶えるために、私は、今、この世界にいるのかしら?)


「お姉さま?」


 目の前にいるリリーの声で、ロベリアは我に返った。不思議そうな顔をしているリリーの頬に、ロベリアは手を添え微笑みかける。


「そっか、そうね。私の使命は、貴女を幸せにすることだわ。リリーは、絶対に幸せになるからね」


 きょとんとするリリーの額に軽くキスをする。そして、ゲームのシナリオで見たくても見られなかったセリフをロベリアは口にした。


「私も大好きよ。リリー」

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