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12 Rイベントは起こりません

 殴ってでもアランを止めるとロベリアが決心すると、ガンガンッと多目的室の扉が叩かれた。


 アランは「誰か来たね。残念」と呟いてからロベリアを腕から解放する。ロベリアがアランから逃げるように多目的室の扉を開くと、そこにはダグラスが立っていた。


「え? ダグラス様!?」


 長い前髪のせいでどんな表情をしているのか分からないが、ダグラスは「大丈夫ですか?」と聞いてくれた。


「あ、はい。あの……?」


 『どうしてここに?』とロベリアが尋ねる前に、ダグラスは「こちらへ」と部屋の外に出るようにうながす。言われるがままに多目的室から廊下に出ると、ダグラスはすぐに扉を閉めた。


 状況が分からず戸惑うロベリアに、ダグラスは落ち着いた声で説明してくれる。


「ここの建物の付近に鍛錬場があるんです。鍛錬していたら、例の媚薬の匂いがして、出所を探していたらここにたどり着きました」


 どうやらロベリアが換気のために開けた窓から媚薬の匂いが漏れていたようだ。


(ダグラス様が、また助けてくれたわ!)


 優秀なダグラスにかかれば、乙女ゲームのイベントなど通用しない。


(カッコいい! 素敵っ! もう結婚して!)


 ロベリアがうっとりしながらダグラスを見つめていると、ダグラスは顔をそらしながら咳払いをする。


「媚薬の匂いがする窓から男女の声が聞こえて、どうしようかと思ったのですが、その……」


 少し言い淀んだダグラスは「私の名前が聞こえたので、念のため、確認しなければと思いまして」と居心地悪そうに話した。


「ダグラス様のお名前?」


 言われてみればアランに『ダグラスのことが好きなんでしょう?』と聞かれ『そうだけど』的なことを答えたような気がする。


「あっ……あれは!」


 瞬時に顔が熱を持ち、ロベリアがダグラスを見れないでいると、「おねぇーさまー」という可愛らしい声が聞こえた。


 多目的室の中から、アランが「リリー、ロベリアはこっちにいるよ」と教える声がする。もしかすると、多目的室の窓の外をリリーが通ったのかもしれない。


 リリーは「アラン、いいかげんお姉様につきまとうのやめてよ!」と怒っているが、アランは「今日はロベリアが誘ってくれたんだよ」と嬉しそうに返している。


 リリーの「お姉様ー!」と呼ぶ声が段々と近づいてきた。廊下に軽やかな足音が響き、廊下の角から天使のような笑顔を浮かべたリリーが顔を出した。


「あ、お姉様、いた! ずっと探してたのよ、一緒に昼食をとりましょう?」


 リリーの言葉に『え? もうそんな時間なの?』と驚いてしまう。でも、ソルとの約束は『午後3:00までアランを寮に帰さないこと』なので、まだしばらくはアランと離れるわけにはいかない。


 多目的室から出てきたアランは、何事もなかったかのように「ロベリア、またね」と微笑んだ。ロベリアは、立ち去ろうとするアランの腕をとっさにつかむ。


「ア、アランも一緒に行きましょう!」


 リリーから「えー!」と大きなブーイングが上がる。アランは、そっとロベリアに顔を近づけた。


「もしかして、ロベリアは僕を引きとめるように誰かに頼まれているの?」


 それは、ロベリアにだけ聞こえるような小さな囁きだった。ロベリアが青ざめてアランを見ると、アランは楽しそうに笑う。


「いいよ、可愛い幼馴染のお願いだから、付き合ってあげる」


(バレているっ! 完全にアランにバレています、先生!!)


 その様子を見ていたダグラスは、ロベリアに礼儀正しく一礼すると無言で立ち去った。


(ああっ!? ダグラス様にアランから助けてもらったのに、そのアランをお昼に誘うなんて、絶対に変な女だと思われた! 先生、この役目、私には荷が重すぎます!!)


 ロベリアは、心の中で涙を流した。

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