私の身体がぐちゅぐちゅと卑猥な水音を立てる。
「やっ、ひろ、きっ。
もう、やだよっ……!」
何度懇願したって、紘希は私の言うことを聞いてくれない。
「嫌なら、どうしてほしいか言えって言っただろ?」
そんなの、わかっている。
でも、そう簡単に言えるものでもないのだ。
「ほら。
言わないとまたイくぞ」
「んっ、あっ」
自分でも絶頂が近いのがわかる。
しかしイったところでこのままだと、さらなる焦燥感が襲ってくるだけだ。
「ひろっ、き」
懇願するように彼を見上げるが、紘希は愉しそうに私を見ているだけでなにも言ってくれない。
もうこれ以上は耐えられないし、迷っている時間もない。
意を決して口を開く。
「紘希が、欲しいっ……!
ああーっ!」
その瞬間、何度目かの絶頂が訪れた。
「よく言えたな」
まだ荒い息をしている私の髪を、うっとりと彼が撫でてくれる。
それが嬉しくて私も笑っていた。
「じゃあ、いくぞ」
「……うん」
ゆっくりと彼が、私の胎内に入ってくる。
散々絶頂を味わわされたせいか、痛みはほとんどなかった。
「やっと純華とひとつになれた」
紘希の目が、泣き出しそうに歪む。
「私も紘希とひとつになれて、幸せだよ」
その顔にそっと、手を伸ばして触れた。
「ずっと大事にする。
愛してる、純華」
私を気遣うように、ゆっくりと彼が動き出す。
そこからはズブズブに彼に溺れた。
心地いい疲れに浸り、ぴったりと紘希に寄り添う。
「めちゃめちゃ気持ちよかった」
あやすようにちゅっと、彼が口付けを落としてくる。
「よかったね」
私もあんなに、気持ちいいなんて思わなかった。
やっぱり、好きな人相手だからかな。
「子供、できたかなー?」
確認するように彼の手が私のお腹を撫でる。
「さすがにまだ早いよ」
それについ、くすくすと笑っていた。
「できてるといいなー」
願いを込めるように彼は、私のお腹を撫で続けた。
そうだね、できていたら私も嬉しい。
「じゃあ、俺は片付けてくるな」
少しまったりしたあと、紘希はベッドを出て軽く服を着た。
「ごめんね、お願い」
手伝うと言いたいが、まだ起き上がるのも億劫だ。
「いいって、俺のせいでもあるんだし。
先、寝ててもいいからな」
「うん、ありがとう」
私に口付けを落とし、紘希が部屋を出ていく。
それを笑顔で見送った。
ドアが閉まった途端、真顔になる。
「……ごめん、紘希」
浮かぶ涙を堪えようと、枕を抱いて丸くなった。
今日、紘希に抱かれたのは、彼とこれからもずっと一緒にいようと決めたからではない。
別れを決めたからだ。
最後に彼に抱いてもらって、想い出を作りたい。
子供は……できていたらいいな。
私と紘希の、愛の結晶。
この子がいればきっと、紘希がいなくても淋しくない。
「ごめん、本当にごめん」
いくら謝ったところで彼には聞こえないのに、謝罪の言葉ばかりが口から出てくる。
やっと私がその気になってくれたって、紘希は嬉しそうだった。
でも私はもうすぐ、いなくなる。
これって最大の裏切りだってわかっていた。
私だってできれば、紘希とずっと一緒にいたい。
しかしそれは、許されないのだ。
「好きだよ、紘希。
愛してる」
あのとき、酔った勢いで紘希と結婚なんかしなければ、こんな気持ちを味わわなくてよかった。
けれど、少しのあいだでもこんなに幸せな気持ちにさせてくれたこの結婚を、私は絶対に後悔しない。
「純華、まだ起きてるならアイス……」
しばらくして紘希が部屋に戻ってきて、慌てて寝たフリをした。
「もう寝たか」
枕元に座った彼が、私の髪を撫でる。
「……純華はいったい、なにを考えてる?」
その言葉にドキッとした。
思わず目を開けそうになったが、耐える。
「まさか、……な」
淋しそうに呟き、彼はまた部屋を出ていった。
もしかして紘希は気づいている?
ううん、そんなはず、ない。
残り三日間、彼との別れなんて忘れてひたすら楽しんだ。
それに……。
「純華」
「えっ、あっ、んんっ」
一緒にプールで遊んでいたら、すぐに紘希が悪戯してくる。
「もう感じてる?」
それに黙って頷いた。
そうしないと私が頷くまで紘希はやめてくれないし、それに実際、感じていた。
「寝室、行く?」
それにまた、黙って頷く。
「じゃあ」
先にプールから上がった彼が手を差し出してくる。
それを借りてプールから出た。
「イブキはもうちょっと、ひとりで遊んでようなー」
紘希がイブキに声をかけ、ふたりで寝室へと向かう。
もう待ちきれなかったみたいで、中に入った途端、いきなり押し倒された。
「……がっつきすぎ」
「純華が可愛すぎるのがいけないんだぞ」
なんて謎の言い訳をしながら、紘希が唇を喰ってくる。
あれからなにかとすぐに紘希はこうやって誘ってきた。
さすがに、イブキの前ではしないみたいだけれどね。
帰る前日、イブキを連れてふたりで海岸を散歩した。
「純華」
「なに?」
立ち止まった紘希が振り返り、じっと私を見つめる。
「俺は純華を愛してる。
それはたとえ、純華が犯罪者だったとしても変わらない。
世界中の誰もが純華の敵でも、俺だけは純華の味方だ」
こんなに真剣な顔をして、紘希はなにを言っているのだろう。
彼の手が伸びてきて、私を抱き締める。
「……覚えておいて」
誓うようにきゅっと一瞬、彼の腕に力が入った。
離れた彼が、淋しそうに笑う。
それは信じてもらえなくて傷ついているようで、私の胸まで痛くなった。
「紘希……?」
「あーあ。
またあさってから仕事かよ。
このままずっと、ここで純華を可愛がっていたいなー」
今までの深刻な空気が嘘のように、急に紘希が明るい声を出す。
「いや、可愛がられるのはちょっと……」
歩き出した彼を追う。
それはまるで追求は許さないようで、それ以上聞けなかった。