その隙に早速腕まくりで台所に立ち、手際良く立ち回る。高原のそよ風のように心地良いクリアボイスのハミングと共に見事な手捌き。
唯々頬を染め、後ろ姿をチラチラ見るルナ。
ああ、ルカってば、女子になって更に可愛いし~。何でこんな子を殴った?!
ボクのバカバカバカ~ッ!
瞬く間に6品並べられ、オマタセ、熱々のうちに食べてね、と対座し微笑むルカ。
おいしそ~! それにこの盛り付け。メチャ器用。
この女子力の高さ……本当に元男子?
ちょっ……待っ……
サラツヤな髪を揺らしてそんな風に甘い顔で見つめられたらもう……
うー、やっぱ天使だ妖精だ~っ! !!
これは後で一緒に見回り、とか言ってデートしちゃうか? しちゃうよね!
あ~もうドキドキが止まらない~、これは拷問だぁ~!!
「クスッ、拷問じゃないですよ。リラックスして下さいね」
「う、うん。ん?―――え ?! ……ま、まさかルカのサイも心を読めるとか……」
「はい。でも覗き見になるからしてませんよ。けど強過ぎる想念は漏れて聞こえて来てしまうの」
「って、あ、あのさ……他に何か伝わってた? ね、ボク、ヘンな事たれ流してないよね ?!」
「うん……大丈夫。聞こえたのは……ウフッ……天使、妖精、デート、とかかな」
「…………キャーッ、ワーッ、ち、ちがーっ……コ、コホン! そ、そう、これは脳内リップサービス、昨日迷惑掛けたし、少しかなりメッチャマジで可愛いからちょっとフォローしただけぇ!」
「フフ……ルナさん、ツンデレもカワイイ !!」
「ヒィ~~~、死ぬーっ、死なせて―――っ」
「フフフ。まあ、でもルナさん。私はそんなに喜べないの……だって……」
昨日の件が気になって仕方ないルカは粘り付くような視線を注ぎ、そして問い詰める。
「ねえ、ルナさん、昨日私以外の女の子の名前を夢で呼んでたみたいだけど!」
カキン、と凍りつき固まるルナ。
「そ……それは……もしかして…セ……」
「セイカちゃんって言ってた……誰?」
「うっ……」
ルカの自分への想いを考えると、どう話すべきか。
だが、不器用な自分が上手く取り繕うのは無理。
そう観念したルナは隠さず全てを話した。
あの事故の時にルカと共に救った人が自分に恩返ししに来た事。互いに兄弟に誰より救われ、大切にし、尽くしてきた。ある意味、世界で最も共感し合える存在だという事。
そしてルナの悩みだったジェンダー的すれ違いが起こり得ぬ『両性』という存在を選んでやって来た事。
であるが故に謎の戦士に拐われてしまった事。
更にその際、救おうとして逆に命を賭して救われてしまった事など。
それらの証拠として、二つ目の左耳を見せた。
「……ルナさんにそんなにピッタリな人がいたなんて……私は……何のために……」
「ゴメンね……ゴメンね……キミとも一期一会だったのに……追って来てくれて……ホントは嬉しかったけど……ボクにはどうしたらいいか分からないよ……」
暫く考え込む二人。
やがて何かを悟ったかのように開き直って
「はあ――っ……でもこの世界、キミもそうだと思うけど、私の助けも必要とする世界だって聞いた。
お互いの最大のアイデンティティーである武術を生かして『誰かの為に役に立てる』世界なら別の意味のパートナ―も有るかも知れない」
ルナは床に目線を落とし、あの少年パーティー達の決意の意味とルカのそれを重ねる。
《この世界に生まれてきた意味……誰かの為に生き、戦い、その命を全うする……》
「人拐いから救ったり、そのセイカちゃんて子を救う為の相棒として私を選んでくれるのならルナさんの役に立てるかもしれない。どう? それまでは私と手を結ぶと言うのは」
「―――それでいいの?」
「……正直に言うとね、そうしてる内に私の方がいいって思って貰えたら、ってそんな
―――でも聞いて!!
別に恋愛とかだけじゃなくて、本当はそれ以上に思ってた事があるの。
私、人を護るこの術をその価値のある人に使いたい……ずっとそれを探してさ迷ってた。そしてキミにそれを見出したの」
「……ボク……に……」
「そうだよ。あの日、ルナさんに私の生き方を、存在の全てを肯定されて……魂を救われた……。その上、無条件に命さえも捧げられて、約束も果たされて……
もう探してたのはこの人だ! って」
ただひたすらに真っ直ぐルナを見つめるルカ。
「だからどうしてもこの恩を返したい、人助け同盟の約束もやり直してずっとずっと続けたい、そう思って転生先をここへお願いした。
だから私が二番目だって構わない!!!
キミの為のバディーとして役に立てて、『こんな自分の存在する意味』がここにあるなら……
――― 共に歩ませて欲しいっっっ!!!!」
「……」
「ル、ルカ……ボクもあの日、初めて友達が出来て凄く嬉しかった……大事にしたいと思った。だから命も張れた。
そのルカがそう思ってくれるならボクも一緒がいい……
それにこんな異世界に放り込まれて……情けないけど昨日も一人の弱さにヘコんでた。
そんなボクが今一番共に居たいと思える人と一緒だったら、こんなに心強い事はないよ!」
そう言って握手を求めるルナ。途轍も無い安心感と勇気。 大きく息を吸い胸は膨らむ。
その手は真っ直ぐルカへと伸びる。
「じゃ、これからヨロシクね! ルカ!」
満面の笑みでその手を両手で包むルカ。
二人はようやく運命の