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第32話 ルカの転生秘話~煉獄界にて





 飲まず食わずでルナを追っていた数日。


 疲労も溜まり、泊まる家もないルカ。

 ひとまず家へ連れ帰り、食事とシャワ―をケアして休ませる。


 その晩、ルナと同じベッドで夢の中のルカ。

 転生時のやり取りが思い返されていた。



  * *



 ―――――《煉獄界》


 目覚めたか、と問いかけてくる空中に浮かんで見下ろすいかつい面持ちの聖者。


 はっ……と気付き、自殺したはずでは ?! と自分の手を見つめるルカ。声の主へ向くと、


「ここは煉獄界。転生前の準備をする所だ。私は煉獄神官である。お前の転生をいざなうため、しばし取りなしを行う。是より幾らかの希望を聞こう」


「希望? そんなの……」


 闇の中でようやく見えた光を失くした。唯一誇れる護身武術を持ちながら体術で救われて……何の為の特訓……それもこの世で最も愛せる者を失って……


「だがお前の活躍が無ければ三人も死んでいた。恥じるでない。それに常日頃から多くの人助けや善き行いをした。だからそれなりの報いがあっても良いのだ」


「どうせ転生しても変わらない。もう適当にどうぞ」


 ルナさんがいないならどうでも……


「そうか、ならあの者の世界観ならどうだ? それに基づこう。まずお主の善行の総量と人命救助から衆生救済の出来る世界への転生とする」


 そう言われても人を救う気にもなれないよ。


「生前の最大百倍までの徳の倍率を与えられ、治癒魔法も得られる。


 但し自殺したことによる懲戒、一種の呪いも受けねばならぬ」



 ―――呪い?……



 一瞬息を止めて顔を伏せ、諦めた様に嘆息した。


「次の世界では自殺したときの精神的な苦しみをずっと持ち続ける呪いだ。自殺した事への悔いが真に晴れた時、その呪いが消える」


 最悪ですね……投げ捨てるように呟いた。


「だが救いはある。徳の倍率以外に人命救助の報奨の倍率がある。


 三人救助したお前は三大ステータスの魔力、超心理力、物理力を各々10倍に出来るが、そのひとつ以上を超心理=超能力にまとめなさい。


 元々前世で生まれ持ち武術で鍛えた精神力と第六感こそがお前を神童たらしめた。その力を高めれば普段は苦痛を封じる事が出来る」



「じゃ、魔法は要りません」



「ならばその分を超心理・サイ(psy)へ振り替えよう。あとは徳の倍率をどうする?」


 最大百倍か……そんなのおまかせでも……そうだ!


「一緒に死んだルナさんはどうしたの?」


 宙を瞑目で探り宇宙意識を読む神官。最大を選んだようだが――とルカに目をやる。


「なら私も。てゆうか同じ世界に行きたい!」


「原則行き先は自由には選べぬが、人命救助した特別権限を捨てればその限りでない」



「えっ!……」と一瞬で瞳に宿る力。同じ世界に行けるの ?! とピクリと揺れる体。



「その代わり治癒・修復魔法の大量付与と引き換えとなる」


「そんなの無くても構わない、また逢えるんですね?! なら見た目はルナさん好みのカワイイ子に! それと選べるその他全部の選択肢はして下さい!」


「分かった。急にやる気が出て来たようだな」


 神官はルナが14才で転送出現型フォアードを望んだ事、そしてゼロからやり直すことも出来る事を告げる。同じ様にしたいかを問われて眼を輝かすルカ。


「は、はい! あ、年齢だけは1才下がいいかな! 」


 その方が可愛いもん好きなルナさんにもっと可愛いがって貰えるかも。……やった! 転生も悪く無いかも……



「すぐに追いますっ!」


「タイミングは神の意思による。時が来るのをしばし待たれよ―――」


 そうして背を向けかけた所で振り返った神官。一つだけ重要な忠告をしてやろうと言った。これは真に役立つ筈だと。


「あの者、普段は見せぬが途轍もなく大きなトラウマを持つ。下手に接した事で、もし大きくしくじれば程だ」



「途轍もなく大きなトラウマ……?」


「そうだ……しくじれば再起不能もありうる」


「そ、そんなに?……でも確かにとても心に傷を負っていました」


「これだけは甘く見ず、気を付けるが良い……」




    * * *




 ――――ハッ……



 夢か。でも本当にそうして貰えた……って真横にルナさん! 」


「うう、寝顔も可愛い~! 」


 ああ早速一緒に寝れるなんて、もうピッタリ添い寝とかしちゃおっかな。


「う……うう……お兄ちゃん……ムニャムニャ……セイカちゃん……ムニャムニャ……」


「セ……?」




     * * *




 ―――翌朝。



 愛らしいルカのパジャマ姿にドキッとするルナ。


「はぅぁ~……」


 と、顔を赤らめ『可愛い好き』の病気を発動する。


 ルカは転生により女子となり、その腰まで伸びた長い髪はピンクがかった紫色、瞳は紫水晶のように神秘的に輝いていた。



「ルナさん、昨日は泊めてくれてありがとう。お礼に朝食くらい作らせて」


「い、いやホラ、器具とかの場所も分からないでしょ。昨日の償いもあるし、ボクがやるから!」


「ううん、私はサイ使い。透視で分かるから大丈夫。それに料理は得意なの」


 そう言って可憐な花の様な笑顔を魅せられて、ドキッ……として固まってしまうルナ。


「え……ぁ……ぁぅ……」



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