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第30話 ルナを追いし者





「危ないところ有難うございます。サスガです!」


「礼を言うならこっちの方。それに力を合わせる強さも知れた……。絶対にキミたちは強くなる。そしてその想いはきっとこの世界をも変えてゆくよ!


 けどステップアップは着実にね。悲しい思いだけはさせない方がいいに決まってる!」


『はいっっ!』


 そうして10人全員から代わる代わる讚えられ、少し照れるルナ。皆と連絡先を交換する。

 こんな体験。ルナにとって掛け替えのない時間を共有した。


 その後、パーティ同士でも労をねぎらい称え合う姿が。ホッとするひと時。

 生死を賭けて共闘した者だけが得られる同胞感に包まれて、また頑張ろうな、と励まし合っている。


 それを見て少し羨ましく思うルナ。


 力を合わせる有意義さをまざまざと感じたルナは、このパーティへの加入希望を申し出る。


 しかし。


「嬉しいけど力が未だつり合わないから……」


 と、やんわり辞退された。そっか、と言いながらぎこちない作り笑顔で寂しさを隠すルナ。

 そこで再びの共闘を約束し、大きく手を振って別れていった。


 別れ際、振り返ってルナを見送るパーティーメンバーの少女がそこに見たもの。


 あのルナの先程までの雄姿は何処へやら、その背中は驚くほど小さく、そして淋しげに見えた。



   **



 家路の途中、ルナは異世界への転生先は神の意思で決まると神官が言っていた事を思い出す。


 自分が徳を持ってこの世界へ送られたその意味、そして少年少女の見せた決意のテレパスを思い返し、今一度噛み締め直していた。



 この世界に転生うまれてきた意味!

 ―――誰かの為に生きて、死ぬ。

      だから戦うんだ!



 お兄ちゃん……そう思ってくれてたんだね。やっとわかったよ。


 やっぱり恩返し、しなきゃだね……。

 そして今日はちょっと強くなれたよ。

 だから、少しだけ……褒めて貰えますか……?



 その仰ぎ見る夕焼けの空。

 まるで見守る様に一番星が輝いていた。




 ***





 ―――中央政府からの急報 ―――



 北方地区に攻めてきた凶悪な魔人を軍が取り逃し東方エリアへと紛れ込んだ。警戒を強める様にとの通達で緊急の対応。


 今やその極東国アストゥロ政府からも頼られるルナは国境の見回り超高速走を日に何周もしていた。

 それはまるで飛ぶような速さで。



 だが折角せっかく高まっていた士気も今回の任務でこの数日間もアジト潰しに行けなかった。


 次第に気持ちが空回って焦り始める。



 ああ、少しでも多く戦って、救って、徳も上げて……一秒でも早く強くならないと!

 セイカちゃん、無事でいて……


 幾らか魔物の進入を阻止したが、この世界には何万と市街に潜んで居る事を考えると、こんな事に意味を感じられなくなって来たルナ。


 ああ――っ、もうどうしたら……

 お兄ちゃん、助けて……


 焦りが焦りを呼び、高速走にも異様な拍車が。

 秒速数万歩になり限界を越えて……


 ドザザザザザザザザザザザザ――――ッ

 遂につまづきかけてなんとか踏みとどまる。

 ポツンと独り立ち尽くすルナ。



 ひゅう……



 と風が鳴って通り抜け、蒼ざめ、うな垂れる。

 とそこへ余りにリアルな幻聴が。



《―――ルナ、心配しないで。大丈夫》



 ハッ! これはお兄ちゃんの口癖……が不安に陥った時の……これは偶然? いや、何かテレパスみたい。


「誰っ? 誰かいるの ?!……」


 慌てて見回すが無論むろん誰もいない。遂にここまで弱音の焼きが回ったかと失笑するが、その言葉にだけは昔からいつでも安心してしまう。それにより自分を取り戻すルナ。


「でもコレじゃだめだ。こんな弱さがあれを招いた……未だに独りじゃ何も出来ない……」


 首を強く横に振って頬に軽くゲンコツをして自分をいさめ、再び走り出す。




 ―――疾駆しながら抱く一つの胸騒ぎ。


 その過剰な警戒情報がなければ気付かなかったであろう、昨日から自分をつけ狙う様な微かな気配。しかもそれは自分より遥か上の何かで殆んど気配を読ませてくれないものと推し測る。


 更には相当な武力をもつ者しか成し得ない身のこなしで追ってくる様だ……。

 もしや例のニュースの魔人か、と警戒を強め活動倍率を高めて身構え始める。


 そこで、最も急峻なガケに来た所で突如〈千倍速〉を使って、


 ビシュンッ


 途中の崖のアゴ下に身を隠すがそれでも気配が近づく。


 ――スゴい……これでもついて来る!


 と焦りと恐怖混じりの剛挙を絶対不可避の死角から思い切り撃ち込む。刹那、


 フワリッ


 と、いなされて空を滑らされる剛拳に唖然。そしてその達人技の正体に驚愕するルナ。

 ルカにソックリな若干若い子の姿。

 しかし胸が僅かに膨らみ、直ぐ女の子と分かる。だが


「ルナさんっ!」

 と呼ぶ声で確信した。やはりルカだ。



 サイにより極大化した第六感の予知・読心力。更に最大・千倍にした体術でルナの千倍速正拳突きを御してしまったのだ。


 居る筈の無い存在に凍りつく瞳。


「え……何でここに ?!

 そ、それに女子になった ?!……

 でもあの時助かったはずじゃ……」



 ルナの真っ直ぐな視線を避けるようにして、ごめんなさい、と譫言うわごとの様なものが。


「な……なに謝ってんの……やめてよ……」


 だって……と漏れ聞こえた様な気がした。言葉を失ったまま棒立ちするルカ。









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