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第29話 この世界に転生《うま》れてきた意味!




 触手槍に腕や脇、頬を切り裂かれ小さく呻きつつも


《未だ……あと少しやらせて下さい!》


 怯まず立ち向かい火炎魔法を浴びせる少女。

 同時に水魔法、そして圧搾空気を数十個所。

 スチーム爆発で覆い、視聴覚を撹乱。

 遥か上空に備えていた大岩玉をマッハで落とす。

 つたない力に対しその戦い方は堂々としていた。


 その強烈な猛撃によりダメージを食らい、身体槍化が鈍る。気圧されて動きが半減する化け物。更にジャミングで動きを完全に止めた。


 隙をつき力をためる一同。


 ―――そして凛と響く決意のテレパス。



《それでも私達は闘うのよ!……だって、さらわれた可哀そうな子たちを考えたらっ!》



《そうさ、人の役に立ちたいその一心で集まっていたのに死んでしまったオレ達。でも召喚により再びそのチャンスが与えられた。だったらその死を無駄にしたくない!》


 決意のリレーと共に、パワ―サプライのパス回しで超振動魔力波ヴァイブショックウェーブのエナジーを寄せ合ってグングン増大させて行く。


《だから例えどれだけコイツらに脅《おびや》かされようと、アタシ達が何もしないで逃げ回ってこの異世界で生き延びたところで何になるのっ!》



《前世の記憶のある僕たちが、徳を持って《《この世界に転生《うま》れてきた意味!》》

 誰かの為に生きて、死ぬ。だから戦うんだ!――》



 愕然と息を止めたルナ。

     その一瞬、兄の笑顔がよぎった。



 ――この世界に生まれてきた意味、

     ルナが教えてくれたんだよ―― 




 支え切れないほど巨大化した魔力塊がそのアンカーの手から爆裂発動され魔物へブチかまされると



 ズヴュ―――――――――――――ンンン



 魔物らは全身が千切れる程激しく振動・痙攣、青黒い血を吹き出して卒倒した。


 ルナは刮目したまま涙を流し、想いを溢れさせた。


 あの日、分からなかった兄の真意。

 胸にいつまでも引っ掛かっていたもの。


〈そうか……そうか!……そう言う事だったのか!


 私の為に生きて……戦って……そして……死……んくぅ……〉


 奥歯を噛み締め涙を呑みこみ、キッと前を見据えると、ルナの今出来る全力の激励の念の叫びを飛ばす。



《ガンバレ――ッ!》



 今すぐにでも飛び出したかったが拳を握りしめ必死にこらえ見守るルナ。


 一心不乱の総勢の立ち回りに突き動かされる様に魂からのテレパスの檄を飛ばすルナ。


《ガンバレ―ッ》


 狂おしい程の熱を帯びたテレパスを受け、更に勢いづく少年少女たち。


 全員戦いの手を緩める事なく、腹を見せて弱った魔物へ業火を浴びせかける。

 しかしその間にも反撃の触手に数人が刺されて倒れる。


 その最中、炎の攻撃が腹にヒットした時だけ触手の攻撃をやめ、脇の下らしき部位を締めてることに気づいた仲間が射手にテレパス。


《その脇に耳みたいのがある! 多分それで俺らを感知して狙って来てるっ!》


 と受け止めるや、決死のダイブでその三体の感覚器官をすかさず射ぬく。


『ピギィ~~~~~ッ』


 腹を上にバタつく異形の魔物達。それは弱点でもあった。更にジャミングの追い打ちにより魔力が霧消し、急速に動きが萎えて間もなく潰えた。



「「「 やったあ!!! 」」」


 思わず全員で歓声を上げる。その瞬間ステータスも大きく上がり、ルナも


《キミ達、やったね! エラいよ!》


 とテレパス、つい涙混じりの笑顔が弾ける。

 全員が晴れやかな達成感で見渡し合う。


 ―――そこへ妙な気配に気付くルナ。


 ……これは魔法の転移!……


 魔界瞬間移動で加勢にきた巨体の魔導師が出現。

 即座に治癒魔法で異形を復活させた。



『あんなに苦労して……』

 血の気が失せる若者たち。



 魔導師はその隙にパーティーリーダーを術で宙高く持ち上げ、悲鳴を上げさせる間さえ与えず叩き落とす。 地面へ激突寸前、


 ピシュンッ――――ズザザザザ……


 まるで滑るように割り込んで受け止めるルナ。


《アイツ、魔力のステータスが三万……キミ達の手に余る……ボクがやるよ……》


《でも……》

 悔しそうにしながら、諦めない強い意思を見せる少年達。だが厳しい眼差しのルナ。



《ボクは武道をやってた。段違いの人とやらせてもらえる程甘くなかったよ。戦いたければ実力付けてからにしろと叱られた。

 ――――それが勝負の世界だ!

 それにキミたちは素晴らしい活躍をした。目標もちゃんと達成したんだよ! だから無理はダメだ》


《分かりました……お願いします》



 ……それだけじゃない、ボクが今後この世界で魂を込めて戦う意味……


 セイカちゃんを救う為だけじゃない。

 ボクがここで生きてく理由に目覚めさせてくれたんだ! それこそがキミ達のここでの最大の活躍なんだよ!!


 熱い想いで鼓動ビートを刻み始める心臓。


 そう、この世界の敵達にとってその活躍がサイコーに嫌なものだったと思い知らせてやりたい!



 ――― 今のボクは…………強いっ!


「いくぞ最大倍速っ! 素手で充分! ソニック連打っ!!」


 ドゴオォォォォォ―――――――ンッ


 突如巻き起こる爆圧と震動。

 全く見えない速さの突きからの後ろ回し蹴りで瞬時に異形の怪物三体がバラバラに。


『スゲェ……』


 あまりの猛威にパーティーメンバーは思わず声を漏らす。


「ヌヌ~……」

 慌てた魔導師は警戒し、先程と同様に遥か天高く離れ、そして


「ヌゥン!」


 とルナを魔術で宙高く持ち上げる。

 ルナは腰の鞘からロッドヌンチャクを逆手に取り出し、


 死の鉤爪リーサル・クロウ! 〈裂閃ティア――ッ 〉


 フィジカルステ―タスばかり突出している……

『絶対に届かぬ筈』と、その油断へ制裁の一撃。


 ブシャッ……


 見えない超速のムチと超振動のカギヅメの猛威が百M以上先の魔導師を一瞬でバラバラに裂く。

 それはあたかも手を振り出すと同時に遥か先でモノが散る手品を見ているよう。


 そのまま落下したルナは何事もなく猫のようにクルッと降り立つ。

 万倍フィジカルでの体術・耐力はどんな高さからの落下でも物ともしない。


 そして死の鉤爪リーサルクロウの射程距離が伸びたのは、ルナの魔力の潜在能力ポテンシャルが少年達の熱い想いによって引き出されたものだった。






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