なんて慈しみ深く見つめてくるんだろう。――――ただ硬直するルナ。
「……だが今回のあの敵は強い。この世界では最強種族の一員。私でもマトモでは勝てない。今は出会わない方がいい敵だ。
それにヤツらは訳あってすぐに我々を襲ってくることは無いだろうから、その日のために力を上げるしかない……」
自分を助けてくれた兄に極めてよく似たこの青年。
そして何やら色々事情も知っている。
ひたすら吸い寄せられるように見つめ続けるルナだった。
そしてこの人の誠実そうな言葉使いと雰囲気。
無条件に信頼し、すがるように問うルナ。
「あなた程でも勝てない……ならボクにあの子を救える日が来るんでしょうか?!」
男は厳しくも優しい瞳でルナに問う。
「もし絶対に救えない運命と分かっていたら?」
……多分諦めてしまう―――
虚ろな伏目になるルナ。虐待を受けてた頃のルナそのもの。
「逆にもし絶対に救える可能性があると分かってたら、諦めずに力を上げて行く道を進んで行ける? それがどんな苦難の道でも」
突如眼力が入る。絶対にセイカを裏切れない。声を荒らげて言う。
「それならもちろん諦めませんっ! どんなに辛くても!」
「なら、どっちとも分からない場合は? 完全に無理とは言えない中でならどうする? 良い結果が約束された時にしか頑張れない?」
『!!!』
電気が走り、自分を恥じた。人には闘わなければならない時がある。
仕舞われていた記憶に横殴りされて胸を
両親によるルナへの烈しい虐待に遂に立ち上がった兄。
骨折ダラケになりながらも全てを賭けて戦って守り抜き、ルナを変えてくれた人生の転換の日の言葉――――
「兄ならっ!……『今出来ることをやり抜く』と……きっとそう言うと思います……」
……ホントバカだ! 一番大事な事を……忘れてた……
「だから……自分も……」
「うん。それで良い」
その瞬間、自分が成長してるのか、まるであの人に試されたような気がした。
「あの瞬間攻撃は確かに圧倒的だ。だが
ルナは突然苦しそうに胸元に手を押し当てた。
『あの事故』で自分の
「えっ、なにそのすごい血……はっ……こんなに傷ついてるじゃないですかっ!」
「フ……私もまだまだですね。でも自分で治せるので。あなたの治療が先だったから」
救出間際に戦士から背中に受けたであろう傷から滴る大量の血。慌てて手をかざすルナ。
「ならボクに治させて下さい! う、酷い傷……こんな見ず知らずのボクの為に……」
「私はあれに勝たねばならない。修行が足りてませんね。だから共に力を付けて強く成りましょう。決して折れる事無く。
そう、それでも何か行き詰まってしまったり、困った事でもあればいつか私を尋ねるといい。何か力になれるかも知れない」
完治したファスターは優しい声音でありがとう、と言いつつルナをその場に残し、
「では、いずれまた」
そう言い残して、微笑と共にスッ……と瞬間移動で消えた。
スゴい……ボクの全速でも瞬間移動には敵わない……
だって敵との間合いが……いつでもゼロ距離なのだから……
しばし呆然とするルナ。
だがハッとしてセイカの言葉―――念をまとめて伝えます―――を思い出し、手の中に残ったセイカの耳を見つめる。
そこに込められた念に集中して読み取る。
《―――ルナさん……私、傷口は自己治癒《ヒーリング》で塞げるから心配しないで。そしていつかその耳を取りに行く……
だからあなたに会える希望と約束の証しとして持っていて欲しいのです。
……そして可能ならそこへ向かって何かを伝えます》
う……うう……っく……セイカちゃん……
ボクはまた大切な人を救おうとして救われてしまった……
何で神様はボクの大好きなものを、大切な存在を、いつもいつも奪うんだっ!
悪い事なんて何もしてないのに……もうやだっ、絶対に嫌だったのに―――っ!
あううっ……ズッ…
…でもこれでやっと分かった。
うっすらとは気づいてたんだ。ボクはただ不幸なんじゃない。
不幸体質なんだ……。深く関わる人を不幸にしてしまう。
ファスターさん……ああ言ったけどやっぱ無理だよ……
だって見えない敵なんてどうしたら……そもそも一番大切な人を救えずに衆生救済なんて出来っこないよ。
『私』はもう力も入らないよ……だって万倍速でも追いつけないなんて……
ダランと腕が落ちる。
……お兄ちゃん……助けて……
兄が救ってくれたあの諦め癖。
だが今は虐待まみれの頃の死んだ目に戻ってしまう。