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第22話 宮廷付き戦士隊長ファスター登場





 ―――――ドゴォォォォ―――――ン!!



 空を切る万倍速ロッドヌンチャク。衝撃波を伴った猛威は猛爆撃の如く周囲の大地をボッコリ抉えぐる。次の瞬間、


「ギャイィィィィィィン……」


 敵の大剣をロッドで受け、互いの途轍も無いパワーの衝突で辺り一面に飛び散る火花。


《速度万倍視でも剣撃がイキナリ眼前に?!……》


 と、触れる程の位置から出現した大剣を首に1mm入った所で食い止める。

 あり得ぬ反射神経に白い戦士も驚きの色を隠し得ず、



《小僧! |通力《つうりき》無しでそこから受けとめるか! 》



 と改まる。即座に万倍速で飛び退き、全速特攻し直すルナ。だが敵のどの太刀も首や頭部に触れる程の所で現れる。

 不可視の攻撃にただ防戦一方。


『ギャギャギャ……』


 と軌道の見えない猛襲を深さ数㎜で受け続ける様子は、さながら火花と闘っているが如く、その連撃に『ギャギャギャ』と耐え続けるも、遂に7撃目、背後からの刃が首の半分まで入った。



 ―――えっ………死ぬ?!



 その刹那、目も眩む強烈な光球に瞬時に包まれ、その場から離れた場所へと瞬間移動〈連れテレポート〉で救われる。


 空を切る白い戦士の大剣。


 光の消えた虚空を不満げに目で追う白い戦士。が、すぐにセイカを抱え地下世界へと連れ去っていった。





   * * *





 ルナを奪った光球は安全な広い野原に出現し、その光度が和らいで少女を抱く人影が姿を現した。ルナはそっと優しく地に降ろされた。


 直ちにその者が懐の内の手かざしでルナの創部をサイキック治癒ヒールし始める。

 だが同時にハッ、とした驚きと僅かに悲しい表情となるその男。


 ルナの心の深奥に蔓延はびこる、〈助けないで欲しかった……〉という強い想い、そして余りにも砕け散った心根こころねをそのサイの能力、〈心眼〉で垣間見たからだ。



 そしてこだまし続ける妄言。



『助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………


………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………』



 そして外見とはまるで異なる心象風景――――



 それは爆撃で何処までも廃墟となった様な無人の都市に、たった独りたたずむ亡霊のような少女。

 まるで千回は自殺を試みたであろう壮絶な姿。


 自分を責めて責め抜いてついた体中傷だらけ、血みどろとなり裂けてただれた皮膚。



 足元に散乱する砕け散った宝物をただ虚しく掻き集めるその虚ろな瞳には、絶望だけを帯びて涙さえ枯れ果てている。

 誰も寄せ付けない孤独なオーラを漂わせて。



 ……何て痛々しい……



 慰める言葉も見つからず治癒を続ける男。

 それにより、ルナは切断された神経が繋がり始める。

 先ず声が、そして少しずつピクピクと動ける様にもなってゆく。



「お……お願いあそこへ戻して……」


 その者へ向きながら懇願するルナ。


「またボクの為に大切な人を失う訳に行……!!! 」



 ――――はあぁぁっっくっ……



 激しく吸い止まる息。

 余りに度肝を抜かれ限界まで目をむく。

 血走る眼まなこ



 ―――そ……そんな……まさか!



「……お……お……お兄……ちゃん?!?!……」




 その瞬間、衣服が千切れんばかりのしがみ付きと顰しかめた眉。

 ブワッ……と溢れ出したルナの涙

 それを見て、その男は再び読心する。



 何て心の中がズタズタなんだ……コレじゃこの世界の強敵と闘う戦士としては……



 余りに惨むごたらしく傷付いているルナの心を『救ってあげたい』と思うも、それが出来ない状態に気付く男。


 ……これではいかに私のサイキックパワーで精神治療メンタルヒールしようにも、まず『本人自身がそれを強く望む』位でないとむしろ心を閉ざすだけ。



 男は表情を変えずに悔しげに想う。



 だがいつか力になってあげられたら……

 でもとりあえず今は……



 そして取り繕うようにルナに向き直り、



「ん? 違いますよ。似てますか? ……凄い戦闘気配を感じたので……通りすがりでしたが差し出がましくも。さらわれた子も命は取られないから落ち着いて行動を」



 そうさせようとしているからなのか、限りなく優しい眼差しで僅かに微笑みながら語りかける眉目秀麗な好青年。

 とても似ているが兄より幾分年上に見える。



「命は取られない?」


「ヤツらの目的は別にある。取り返すチャンスはまだあるからムダ死にをしてはいけない」



 無礼にもその軍服にしがみついた手に気づき、緩めるルナ。




「……私はラグレイシア王国の宮廷付き第一級戦士、隊長ファスターと申します。

 あなたは転生者ルナさんですね。噂は早速聞きましたよ、国境での大活躍を。

 いつか協力して戦えたらいいですね」


 なんて慈しみ深く見つめてくるんだろう。――――ただ硬直するルナ。


「……だが今回のあの敵は強い。この世界では最強種族の一員。私でもマトモでは勝てない。今は出会わない方がいい敵だ。



 それにヤツらは訳あってすぐに我々を襲ってくることは無いだろうから、その日のために力を上げるしかない……」




 自分を助けてくれた兄に極めてよく似たこの青年。

 そして何やら色々事情も知っている。




 ひたすら吸い寄せられるように見つめ続けるルナだった。






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